霞に月の145

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 結果的に工藤の無体なやり方が良太の反骨精神を刺激して、一秒でも送れたら受け付けないといわれていた戸塚教授に合格のサインをもらえたといえる。
 厳しいと言われていた戸塚教授だが、卒業の時には、頑張ったねという言葉をかけてくれたことも思い出した。
 あの頃は周りのことも自分自身のこともあまり見えていなかったかもしれない。
「まあ、墓参りに戻ってきた時に、おじさんおばさんうちにも立ち寄ってくれて、元気そうだったって、水臭いってうちの親も半泣きで言ってたからな。あの界隈じゃ、人がいいおじさんが知り合いに騙されたってことはみんな知ってるし」
 肇の言葉に良太は「みんなのことをありがたいってうちのオヤジも言ってたよ」と笑みを浮かべた。
 父親の良一は借りていた借金を返し終えたので、ようやく墓参りに川崎に戻る気になったのだろう。
 家があったはずのあたりを良太も一度車で通りかかってみたが、マンションが建ち、もう当時の面影はなくなっていて、むしろすっきりした。
 あれでまだ廃屋のように工場が残っていたりしたら、やりきれない思いを抱いたかもしれない。
 肇とかおりがやがて帰っていくと、「いいお友達ねえ」と万里子がしみじみ言った。
 鈴木さんが新しいお茶を入れて、良太にもロールケーキを出してくれた。
「わ、うまそ! いただきますぅ」
 良太は万里子の前に座って、早速ロールケーキに噛り付く。
そんな良太に苦笑しつつ、「東洋商事、行ってくる」と工藤も出かけて行った。
肇が良太の家の話題を持ち出したために、工藤と良太のおそらく最初の邂逅だったのだろう時のことはうやむやになった感じだ。
「やっぱ、工藤さんと良太ちゃん、何か因縁があるのよね~」
 万里子がまたその話題に立ち返って呟いた。
「いや、人間、どこかでニアミスってあるのかも知れませんよ? ただそれに気づくか気づかないかくらいで」
「悟りを開いたようなこと言わないで、もっとロマンチックに考えてもいいんじゃない?」
「や、鬼の工藤にロマンとか言われても…」
 首を傾げながらロールケーキをぺろりと食べ終える良太を見ながら、万里子は笑い転げた。
 工藤があの時のことを思い出したか、何か思ったかどうか、良太は気にはなったものの、万里子が帰るとたまっていたデスクワークに精を出した。
 鈴木さんが帰って間もなく、工藤が戻ってきた。
「飯、行くか」
 良太は顔を上げて、「はい」と答えた。
「電話一件済ませたら『夕顔』行くぞ。適当なところで切り上げろ」
 一応真面目な顔で返事をするが、外で一緒に食事をするのは、良太が大泣きした日以来で、内心かなり喜んでいる。
 千雪にはあの日、連絡も入れていなかったことを翌日電話で詫びたが、またイジメられたらいつでも来てええから、などと言われた。

 


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