霞に月の147

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 なんか今夜、疲れてんのかな、うらぶれてっぽいし。
 良太は工藤の横顔を見てこっそりそんなことを心の中で呟きながら、工藤の横に座った。
「いらっしゃい」
 おかみがカウンターの中から良太におしぼりを渡してくれる。
「肉じゃが美味しそうですね。俺、生ビールお願いします」
 お通しはネギダレがかかった揚げナスだ。
 これも美味い、と良太はナスを味わう。
「檜山の放映は週末だったか?」
「はい。ヤギさん一押しです」
 ドキュメンタリー番組、「和をつなぐ」で能楽師檜山匠を扱った回は週末の土曜日となっている。
 初回は茶道の師匠である佐々木淑陽とその息子佐々木周平を取り上げたが、美貌の佐々木と茶の湯の組み合わせは、ここ二年程、年頭の老舗呉服問屋大和屋のイベントで評判となったが、あくまでもローカルだったところが、全国ネットでの放映で日本中に知れ渡り、ネットでもたちまち拡散した。
 続いて渋いイケメン和菓子職人の黒岩研二や華道家元の娘で世界を飛び回って花を生ける五所乃尾理香などもドキュメンタリーにしては視聴率もよかった。
 そして満を持して檜山匠の登場だ。
 GWに封切られた映画『大いなる旅人 京都編』に安倍晴明の末裔なる役で出演し、話題をさらったばかりの匠は今、大いに注目を浴びている。
「やっぱり、トーク番組だけじゃなくドラマとかのオファー来てます」
 匠はどこの事務所にも所属していなかったので、今は青山プロダクションが窓口になっている。
「本人は稽古や舞台に差しさわりがなければいいと言っているが」
 工藤は手酌で熱燗を飲みながら言った。
「ええ、あんまりこだわりないって。でも、やっぱ、勝手に匠のことを調べて狩野流のお家騒動とか話題にしてる番組あるし、週刊誌も面白おかしく書き立ててるし。狩野流をつつくのが嫌だって、匠も言ってるのに」
 匠はせっかく最近穏やかになってきていたのに、実家とまたぎくしゃくするのが面倒くさいと良太に愚痴っていた。
「悪質なやつには小田に動いてもらう」
「はい。全く、由緒ある家柄とか金持ちとか、めんどいことこのうえないですよね」
 ブツブツ言う良太の前に置かれた鰹のたたきに、今度は舌鼓を打つ。
「あ、俺も熱燗ください」
「今夜は何だか肌寒いですものね」
 笑うと目が細くなるおかみは、未だに良太の顔を見ると、あら、こんな子がお酒なんて大丈夫かしら、と思うのよ、なんて言うのだ。

 


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