霞に月の149

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「そういえば、大森さんの、すごくいい出来になったって、ヤギさん、喜んでましたよ」
「そうか」
「あ、そうだ、大森さんがちょっと情報くださったんですけど、表具師? やってる親子がいるって。ちょっと連絡してみようかと思って」
「表具師か。面白いかもな」
 土曜日放映のドキュメンタリー『和をつなぐ』は良太がメインでやっているのだが、あちこちにアンテナを張って、調べたりしているが、なかなか面白い視点で進んでいる。
 昔、人の顔が鬼だと文句を言っていた野球少年が、隣でそんな話をするようになるとは、確かに、人の縁などはわからないものだ。
 というより面接でもとても続きそうにないと工藤が判断したにもかかわらず、もやしのようなひょろっとした学生が今一人前に仕事の話をしているのだ。
 オールドマンのカウンターで、工藤は好きなラム酒をやりつつ、ニヤニヤ笑う。
「ちょっと、何笑ってんですか」
 すかさず工藤の笑みに気づいて、良太がクレームを入れる。
 良太はXYZなんかを作ってもらって飲んでいる。
 いっちょまえに。
「いや、あれ、制作サイドになかなか好印象だぞ」
 工藤はごまかすが、まだにやけが引っ込まない。
 良太以外、この店に人を連れてきたことはなかった。
 もともと一人の時間が欲しかった工藤にはこの店が居心地がよかったのだ。
 ここに良太を連れてきたのはどういう了見だったのか自分でも思い出せない。
 だが、良太が隣にいても居心地がいいのだから、よしとするか。
 部屋に戻り、お互いに鍵を開けたところで、工藤は良太を呼び、顔を上げた良太に唇を重ねた。
「ちょ……こんなとこで……」
 文句は言っても、しつこい口づけにも良太は逆らうこともない。
 そのままベッドになだれ込み、ひとしきり良太を可愛がってから工藤は身体を繋げた。
 良太の身体が悦んでいるのはその声でわかる。
 工藤を欲しがって良太の腕が工藤の背中に絡みつく。
 ようやく工藤が身体を離した時、良太はゆっくりと起き上がった。
「俺、風呂も入ってないのに……」
 よたよたと良太はバスルームへ歩いていくとコックを捻って湯を浴びた。
 上気した頬も身体も熱がなかなか引いてくれなかった。
 どのくらいたったか、バスルームのドアが開いた。
 良太がえっと思う間に、後ろから抱きすくめられた。
「何だよ……エロオヤジなんだから……」
 艶を帯びた声で口にしても抗議にもならなかった。
「ちょ……工藤……って」
 追いかけてきた工藤はぼそぼそと呟く良太の腰を引き寄せる。
 工藤の指が触れるとすぐに良太は反応した。
「元気じゃないか」
 言う間にさっき十二分に愉しんだその中に工藤は押し入った。
 言葉にならない声を上げる良太を揺さぶり身もだえさせながら、工藤は愛しんだ。
 良太は自分を欲しがっている工藤に、ひたすら従順に応えるだけだ。
 ずっとあんたといられればいい。
 そんな良太の心の声は工藤にも確かに届いていた。

 


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