霞に月の151(ラスト)

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 工藤から聞いたところでは香坂にもいろいろ良太のことで言われていたらしく、良太は何となくばつが悪い。
「やっぱ、良太さんが元気じゃないと、この会社はダメだって、アスカさんも言ってますしね」
 香坂の言葉を聞きつけて森村が口を挟むと、そうよね、と鈴木さんも頷く。
 加賀と香坂はしばらく漫才のようなやり取りをしていたが、高広によろしく、と香坂が言い置いて、やがて二人は帰っていった。
「香坂先生、傷も治ったみたいでよかったですね」
 森村があらためて良太に言った。
「そうだな。しかし加賀先生と香坂先生か」
「お二人とも背高いし、楽しそうでいい感じでしたね」
 微笑ましいというか、妙にお似合いだったと、良太も思う。
「加賀先生もよかったわ。前はほんとうらぶれた感じでしたもの」
 鈴木さんもそんなことを口にする。
 そこへ工藤が戻ってきた。
「早かったんですね。撮影、終わったんですか?」
 良太が聞くと、「ああ。今朝のうちに終わった」と言いながら工藤は自分のデスクに向かう。
 清涼飲料水のCMに南澤奈々が起用され、予定では工藤の帰りは明日のはずだったが、撮影が順調だったのだろう。
 良太が香坂と加賀が来ていたことを告げると、工藤は「へえ、加賀のやつ少しはまともになったのか」などと言う。
「香坂先生みたいな素敵な方とお付き合いされてるんですもの、そりゃ少しはしゃきっとされないと」
 実感がこもった鈴木さんの言葉に、工藤は苦笑する。
 ただ、加賀さんから請求書お預かりしました、と告げた鈴木さんに、「ああ、それはこちらに下さい」と工藤はあくまでもプライベートで処理するつもりのようだ。
 鈴木さんが工藤にコーヒーを持っていこうとした時、工藤の携帯が鳴った。
 ちょっと声高に話す工藤に、良太は聞き耳を立てていたが、これは何かあったな、とピンとくる。
「ネットプライムでトラブルだ。良太、行くぞ」
 電話を切るなり、工藤が言った。
「はい」
 工藤がコーヒーに口をつけているうちに、良太は素早くノートパソコンの電源を落とし、リュックを掴んでデスクのライトを消した。
 鈴木さんと森村のいってらっしゃいに送られて、良太は工藤に続いてオフィスを出た。
「田岡主任が人身事故で本人も入院した」
 ジャガーの後部座席に乗り込んだ工藤が言った。
「え? 相手は?」
 良太はエンジンをかけて車を駐車場からゆっくりと走らせる。
「かなりの重傷だそうだ」
 田岡はネットプライムで工藤が関わっているドラマの主任プロデューサーだ。
 メインスポンサーは田岡が窓口になっているし、今回のドラマ制作全体が田岡の力によるところが大きい。
「でも、もう配信始まってますし、ドラマに影響はありませんよね?」
「既に次期シーズンの制作に着手しつつあるからな」
「それは、どうなるのかな」
 工藤の言葉に良太も眉根を寄せる。
「まあ、仕方がない。できることをするだけだ」
「はい」
 そうだ、できることをするしかない。
 トラブルはいくらも湧いて出るし、これから先も何が起こるかわからないが、その都度、対処する以外にないのだ。
 何が起きても工藤についていくだけだ。
 良太はアクセルを踏んだ。
 季節はそろそろ梅雨に突入しようとしていた。

 


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