霞に月の16

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「来年は前もって、平さんも誘っときましょうよ」
 工藤は苦笑しながらグラスを持ってきてソファに座ると、ボトルを開けて酒をグラスに注いだ。
「軽井沢の桜はまだこれからですよね?」
 良太は昨年の遅い春に、たまたま平造がぎっくり腰で入院したために急遽軽井沢に行くことになった際、たまたま別荘の桜を工藤と見たことを思い出していた。
「『六条渉』の方はどうだ?」
「来週、キャスティングの最終打ち合わせです」
 書面では工藤にも渡してあるが、来春放映予定の小林千雪原作のドラマ『検事六条渉』は六条渉を山内ひとみ、バディ的な位置づけの警視庁捜査一課の刑事四ノ宮健を天野右京、六条の元恋人で凄腕の法医学者であるT大法医学教室の准教授美並一臣を江藤巧、その他のキャスティングもほぼ決定したことや、撮影の大まかなスケジュールについて良太は説明するとグラスを手に取った。
「千雪さん、この原作、キャラがどこにでもある設定で面白みもない三文小説とかって自分で言ってましたけど」
「まあ、そうだな。だが、千雪の周りにいるのがそういう連中だからな。主人公を少し変わり種にしたくらいで。一応リアルさを重要視したんだろう」
 工藤もそんなことはわかっているといった口ぶりだ。
「ですね。弁護士シリーズは情景描写に重きを置いているから、棲み分けはきっちりしてるかと」
 良太も原作をを読んだが、面白いのは確かだし、設定はどうあれ人物キャラは千雪が言うようなどこにでもあるとは思えない描写だ。
「これ、美味しいですね」
 良太はゴクゴクと酒を飲み干した。
「調子に乗って飲み過ぎるなよ」
 工藤は苦笑しながら自分と良太のグラスに酒を注ぐ。
「ネットプライムのオリジナルドラマ制作のオファーがある。『六条渉』の会議はいつだ? スケジュールが合えば一緒に行くぞ」
 良太は顔を上げた。
「はい、会議は火曜日ですけど」
「だったら水曜日午後空けとけ」
「わかりました」
 以前にも工藤は関わったことがあるが、ネットプライムはアメリカに本社を置く配信プラットフォーム会社で約百九十か国で配信されている。
そのオリジナルドラマであれば制作費が大きいし、映像も丁寧に面白いものを作れる可能性が格段に広がる。
 良太としてもその制作に少しでも関われるのは嬉しいこと極まりなく、今からワクワクものでコニャックを口に持って行く。
「あ、そうだ、杉田さんの誕生日、どうします? 来月ですよね? こっちにご招待のがいいかな」
 良太は工藤を振り返った。
「ああ、そうだな」
 工藤はグラスを空にすると、良太に向き直り、その首筋に指を伸ばして引き寄せて唇を重ねた。

 


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