佳乃さんとは、そういう関係ではないって言ってたけど、未だにちゆきさんを忘れられずにってのは、工藤、哀しいぞ、それ。
小説家の千雪さんに未だに横恋慕してるっていうんでもないのなら何だよ?
考えたら、四十超えて、俺なんか相手にしてっから、工藤、結婚とかもできないんじゃね?
ってかそれだと、元凶は俺ってことになるじゃん?!
良太はキーボードを叩きながらまたぐるぐるして、はあ、とひとつ溜息をつく。
今朝は熟睡していたらしい。
ドアが閉まる音でようやく目を開けた良太は慌てて飛び起きた。
時刻は既に九時半になっていてさらに慌てた。
自分の部屋に戻り、猫のご飯をやってから速攻でシャワーを浴びて身支度を整え、タイを結び終えたのはギリの九時五十五分だった。
だめじゃん、俺。
俺ら、お互い、やっぱ会っちゃいけなかったのかな。
「良太さん」
気が付くと森村が傍に立っていた。
「あ、お疲れ様。任せちゃってすまない」
現実に引き戻されて、良太は森村を労った。
「ちょっと、相談したいことがあって」
森村が言った。
「え、じゃ、時間ある時、どこかで」
「今日、仕事終わってから、良太さん、どうですか?」
良太はスケジュールを確認した。
「今日か。そうだな、打ち合わせ七時過ぎには終わるけど、それからでもいい?」
「大丈夫です」
「んじゃ、どっかでメシでも食おうか」
「はい、お願いします」
ぺこりと頭を下げて自分のデスクに戻っていく森村を見ながら、そろそろ本来の仕事に戻りたいってやつかな、と良太は思った。
あくまでもここはバイトだしな。
モリーのこと結構、都合よく使ってたからな。
森村がここを辞めたとしても、何とか切りまわして行かないと。
森村を誘ったのは、会社の近くにある鮨屋だった。
「わり、お待たせ」
オフィスで待っていた森村は、「お疲れ様です!」と元気よく立ち上がった。
「ええ、嬉しい、お鮨懐石って初めてです」
予約していた個室に通されると、森村は嬉し気に言った。
「いや、いつもいろいろ面倒ごと押しつけちゃってるし、たまには美味しいものでも食べてもらわないと」
握り寿司をメインに八寸や味噌汁、煮物椀、焼き物などの皿がテーブルに並ぶと、日本酒を飲みながら、二人とも美味い美味いと一式平らげていく。
「美味かったあ。やっぱ本物は違う!」
森村が首を振りながら端的な感想を口にした。
「ニューヨークで、父が日本料理の店に連れて行ってくれたんですが、美味かったけど何かちょっと違うんですよね」
「やっぱ、向こうの人の口に合うようにできてるんじゃないの?」
「うーん、そうなのかな」
やがて締めのお茶とお菓子が出てきた。
「うわ、可愛くてうまい」
フキノトウを模したという浅黄色の菓子は抑えた甘みもすっきりと美味しかった。
「で? 相談したいことって?」
良太は森村が菓子を食べきったところで切り出した。
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