森村は湯のみをテーブルに置いて、しばし逡巡しているように見えた。
「ええっと………、あの、俺、ほんとに、青山プロダクションで働かせてもらって、すごく感謝してます。仕事もいろいろありますが、もともといろいろやるのは好きだし面白いです」
良太は、やはり仕事のことか、と思う。
「うん。いろいろ小間使いみたいにやらせてしまってるよね。そろそろ本業に戻りたいっていうんだろ?」
すると森村は目を大きくして、「え、いや、あの……」と言葉に詰まる。
「もともとの約束なんだし、だからバイトってことでやってもらってたんだから、いいよ。ただし、急に明日からって言われるとちょっと困るけど」
「違います! そういうんじゃなくて」
森村は両手を良太の前で大きく振った。
「第一、日比野さんからはまだ声がかからないし、っていうか、あの、バイトっていうのは全然かまわないんですが、何て言うか、むしろ、こちらの仕事をメインに、ADの仕事で声が掛かったら、こちらの仕事との兼ね合いを考えながら、やらせてもらえればって思ってます」
今度は良太が森村を見つめた。
「え、そうなの? いや、仕事のボリュームとかスケジュールとかは、モリーが考えてくれてかまわないし、うちはってより、ここんとこ、俺はって感じだけど、やってもらえれば非常にありがたいけど」
「ありがとうございます!」
森村はテーブルに額がつくほど頭を下げた。
「いやいや、こちらこそ、ありがとうございます! いや、相談とかって真面目な顔でいうから、てっきり、バイト辞めたいとかじゃないかと」
「とんでもない!」
森村は首を横に振りながら目いっぱい否定した。
「何ていうか、日本は四月が物事の始まりって感じじゃないですか。だから俺はこのままバイトやらせてもらっていいのかな、とか、これまでの俺の仕事はどうだったのかなとか、考えまして」
「そういうことか。いやほんと、俺のパシリみたいな仕事も多いし、夕べみたいに雑用とかもやらせてるし、モリーとしてはどうなのかなって、思ってたんだ」
良太は笑った。
「もちろん、願わくばこのまま四月からもお願いします。ADの仕事が入りそうなら、そっちへ行ってもらってかまわないし。ただし、さっきも言ったように、急に明日からはちょっと困るけど」
「わかりました! 今後ともよろしくお願いします」
森村はまた額をテーブルにぶつけそうに頭を下げた。
「じゃあ、早速だけど、お願いしたい仕事をいくつか」
「はいっ! 何でも言ってください」
森村はきっぱりと居住まいを正す。
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