霞に月の27

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「せやなあ」
 千雪は肯定するように頷いた。
「それ、ほんまに近しいもんやないとわかれへんよなあ。工藤さんのご学友の小田先生や荒木検事とかも、工藤さんがこの世に未練がないみたいに生きてるんが歯がゆいて思うとるんやないか?」
 やはり千雪も工藤のそういう面を感じ取っていたんだと良太は増々顔を顰めてグラスの酒を煽る。
「俺、どうせ俺が勝手に好きなだけだから、一生工藤につきまとってやるくらい思ってた。前に、本谷くんが工藤に告ったの聞いちゃったって言ったでしょ?」
「ああ、そんなことあったな」
「あの時、工藤、よく告られるんだ男にもって。お前の気持ちには応えられないって、そう言ったけど、付き合ってる相手がいるっていえば、諦めもつくじゃないですか。でもそんなこと一言も言わなかった。なんか、それで腑に落ちたっていうか、工藤には俺と付き合ってるつもりはないんだなって」
 すると千雪は、ハア、とため息を吐く。
「あんなあ、それ、わざわざ言う必要もないて思たんちゃう? お前、考えすぎやわ」
「いえ、どのみちたまたま俺が社員で工藤にコクったりしたから、俺となし崩し的な状態になってしまっただけで、俺じゃなくてもいいんですよ、もしか本谷くんでも、工藤にとっては」
 良太は嗤う。
「メチャ後ろ向きになってるって思ってるでしょ。でも俺、どうせ工藤はそんなだってわかってるから、勝手に好きでいようって思ってたんです、前向きに」
 千雪は黙って聞いていた。
「でも気が付いたんです。俺はよくても、それだと工藤が後ろ向きのままだって。俺が頑張ってる限り、工藤が亡くなったちゆきさんに代わる人と巡り会うのを邪魔してるって。工藤にはちゃんと付き合ってるって人に言える相手が必要なんだって」
 そこまで言うと、良太は口を噤む。
 千雪は何も言わず、難しい顔でしばし腕組みをしていたが、「良太のいわんとすることはわからんでもない」と言った。
「要は、好きや愛しとるお前だけや、とか何とか工藤さんは言わんから、お前と付き合うとるとも言わんから、お前は恋人やないて言うわけやろ? けど、工藤さんにちゃんと、聞いてみたんか?」
「ダメですよ、工藤さん、何か俺が言うと、お前には関係ないことだとか何とか言うだけだし。大体、昔っから俺には価値がないとか言われまくってきたんですよ?」
「お前、それは話しがちゃうやろ?」
 千雪は反論しようとしたが、良太は取り合わず首を横に振る。
「工藤さん、最近まで桜、まともに見られなかったんですよ。知ってますよね?」
「やから工藤さんが桜見られるようになったんは、お前のお陰やろ?」
「無理やりじゃダメなんですよ。工藤さんには一緒に桜を見たいって思える相手が必要なんです」
 そこまで言い切ると、良太はむしろ清々しい思いで一杯になった。
「でも、差し当たって、どうしていいかわからない。一番手っ取り早いのは、俺が誰か見繕って付き合ってしまえば、工藤さんとのなし崩し的な関係も消滅するんですけど、そう簡単に見つかりそうもないし」
 だがそう口にした良太の目からポロリと涙が零れ落ちる。
 千雪はそれを見て、頑なになっている良太を諭そうとしても無駄だと感じた。


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