霞に月の28

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「ほな、あれや、沢村とアスカさんみたく、誰ぞを恋人役に仕立てたらどや? ほんで、工藤さんの出方を見るんや」
 嬉々として提案する千雪に、良太は首を横に振る。
「それ、無駄だと思います。ずっと前に、沢村が俺をアメリカに連れていくってなった時も、そうかって送り出そうとしただけだし、例の変なライターに脅された時、俺、会社に迷惑かかると思って、好きな人が出来たって言ったら、わかった、これからは社長と社員だ、って言われただけで」
 それを聞くとさすがに千雪も「はあ?」と聞き返す。
「ったく、あの、クソ頑固オヤジ! なんやねん、それは!」
「だから、出方を見るも何も、俺が何を言ってもあの人、へとも思わないから」
 いや違う、それは工藤が頑なに本音を言おうとしないだけだと、千雪はそこでようやく、頑ななのは良太だけでなく、工藤が輪をかけて頑ななのだと思い知る。
 大体、そこのドアは何だとさっき良太に聞いたら、工藤が自分の部屋と行き来できるように勝手に作ったというし、良太の一方通行ならそんなドアはいらないだろうと思うのだが、良太にそれを言っても埒が明かないのだ。
 無論、工藤の出自や背景を考えれば、いろんなことにバリヤーを張っているのはよくわかるし、おそらく工藤は、良太を思うが故に口にしないのだ、良太のことを。
 もし工藤が大切にしている人間が良太だと、工藤を消し去りたいだけの連中にでも知れた日には、やつらのターゲットは良太になってしまう。
 にしても限度ってものがあるだろう。
 工藤のことで良太はいっぱいいっぱいなのに。
 ひとことくらい、何か言うたっても、バチはあたらないやろに。
 千雪は大きくため息を吐く。
 ああ、あれか、花見に来てた良太の同級生二人、結婚するとかって話だし、妹も彼氏ができてひょっとすると結婚って話になるかもってやつで、良太も信じられんけどアラサーやからな。
 自分のこと考える前に、やっぱ工藤さんのこと考えてまうわな。
 四十超えたええオッサンやもんな。
 ああ、クッソ、この二人、表面上は穏やかに見せとるくせに、実はめっちゃこんがらがっとるやんか!
 俺の悩みなんか、吹っ飛んでまうわ。
 それこそ金田一耕助みたく千雪は頭を掻きむしりたくなった。
「とにかくや、ちょとまあ、ここは落ち着いて考えてみいひん?」
 良太のグラスにワインを注ぎながら、千雪は言った。
「………ありがとうございます」
 良太は神妙な顔で言った。
 


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