竹野は口は悪いが仕事には真面目な努力家なのは良太もよくわかっている。
「わかりました。よかったらいらしてください」
「いいのか? この業界の人間だけじゃねぇだろ?」
一緒についてきた大澤が言った。
「大丈夫ですよね?」
「当たり前じゃない」
念を押した良太に、スパッと竹野は切り返す。
「でも、そんな大それたものじゃないんですよ。うちの会社の裏庭の桜をサカナに内輪で飲み会するだけなんで」
「大それた桜のお花見よりずっとよさそうじゃない。行く」
「じゃ、二十六日か二十七日ってことで、また決まったら連絡します」
「わかった」
ニコッと笑って竹野は踵を返した。
「いいのか?」
大澤が聞いた。
「竹野さん、しっかりしてるし、大丈夫でしょ」
問題は、ゲイの友達、だけではないのだが。
第一そういう固有名詞でカテゴライズしなくちゃならないようなことじゃないと良太は思うのだ。
ま、いっか。
とにかく今はWBCで巷は大騒ぎだ。
今年こそ五年ぶりの優勝だ、というわけで、日本は快進撃を続けている。
関西タイガースの四番打者沢村の活躍も目覚ましいものがあり、良太もともするとWBCの試合の方へ意識が飛んでしまう。
パワスポもそれこそWBCの試合に全力投球である。
このままの日程でもし日本とアメリカが決勝進出ということになれば、フロリダのローンデポ・パークだ。
ひょっとして良太も渡米する可能性も出てきた。
いずれにせよ、勝手も負けても二十六日あたりは沢村も東京にいるつもりらしく、わざわざラインで花見に行くからななどとメッセージをくれている。
沢村から何かと思ったら、そんなことだった。
たかだかうちの会社の裏庭の花見のことで、わざわざWBCの試合の最中にラインなんかよこさなくても。
月末にはプロ野球も開幕するし、沢村をキャラクターに起用した東洋グループのCMがいよいよ四月一日からオンエアの予定である。
沢村とレッドスターズの八木沼が自主トレをしていた屋内施設からタイガースのホームグラウンド、さらにニューヨーク、イタリアなど海外で撮影が行われた他、街中ではなるべく素に近い沢村をフォーカスし、クリエイターの佐々木がそれらをモチーフに創り上げた映像は、東洋グループの重鎮たちをうならせた。
とにかく、沢村はWBCで優勝しようがしまいが、その佐々木と一緒に花見をする気満々で、大っぴらに佐々木にべたつきそうだ。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます