霞に月の73

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 薬が効いてきたのか、昼前には頭痛が消えていた。
 午後からはドキュメンタリー番組のミーティングが入っているので、良太はホッと安堵する。
「良太ちゃん、マルネコさんでお弁当買ってくるけど、どうする?」
 鈴木さんが財布を持って立ち上がった。
「え、お願いしていいですか? お任せランチで」
「わかったわ。行ってまいります」
「行ってらっしゃい」
 ようやく何か食べる気にもなってきた。
「お茶、用意しとこ」
 切りのいいところでファイルを保存すると、良太は立ち上がって自分のマグカップと鈴木さんのマグカップを持ってキッチンに向った。
 カップを洗うと急須にお茶を入れ、湯が沸くのを待った。
 ネクタイに何気に手をやった良太は、今朝、ネクタイを結ぼうとしてタイバーがなかったことを思い出した。
 どこかで落としたんじゃなければ、天野さんとこかなあ。
 最近、色が合えばあのタイバーを使っていた。
 三月に工藤にもらった誕生日プレゼントだ。
「一応ラインしてみるか」
 天野のところにあればいいが。
 もしかするとこれが工藤からもらった最後になるかも知れないのに。
 タイバーを部屋に忘れていなかったかと天野にラインをすると、「そういえばストライプのやつしてましたね。部屋に戻ったら探してみます」というメッセージが返ってきた。
 良太は時間がある時でいいからとメッセージを送り、はあ、と大きく溜息をついた。
「何やってるんだか、俺」
 だが、天野の部屋の床に積み上げられた本や服の山の状況を思い出すと、見つかる可能性は低そうな気がした。
「あーあ、しょうがないなあ」
 こうやって、これから工藤との接点が一つ一つ風化していってしまうんだろうか。
 工藤と親し気に笑っていた香坂が脳裏に浮かぶ。
 あんな大らかな人なら、工藤も楽しい家族になれるんじゃないか。
 そしたら人生の大半を仕事に費やすとかじゃないって、工藤も少しは考えるだろう。
 俺が工藤の幸せの邪魔をしちゃいけない。
 いくら俺が工藤のことを好きでも、工藤に必要とされてなければ意味がない。
 工藤にとっては価値がない、んだもんな。
 良太がそんなことをグダグダと考えている間もないくらい、午後からは怒涛のように仕事に埋没させられた。
 ドキュメンタリー『和をつなぐ』の会議は一回目二回目が成功と言えただけに、これからおそらく落ち込むかもしれない案件について白熱した意見が交わされ、夕方近くにようやくそれぞれのスケジュールの都合で解散となった。
 良太は局を出ると昨日に引き続き、『コリドー通りでよろしく』のロケ現場へと急いだ。
 

 


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