最近、良太もようやく自分が仕事をやっているという実感を持てるようになった。
このロケ現場も、良太の采配で現場がお膳立てされ、俳優たちは監督によって動いていく。
俳優たちが思い通りの芝居が出来るようにクルーたちはそれぞれ自分の役割を果たし、何かあれば良太のところへ指示を仰ぎに来る。
良太が初めて現場を一任された頃は、古参のクルーたちからこんな若造に何ができるというような目で見られていた。
それでも一つ一つ懸命にクルーたちとコンタクトを取り、自分が正しいと思う時は相手が古参であろうとも真っ直ぐに意思を貫いて譲らない。
工藤と違うのは、物言いが丁寧で、笑顔があるところだと、ある時言われたことがある。
「いや、工藤さんに頭ごなしに言われるとカチンとくるんだよね。言ってることは間違っちゃいないってわかってるんだけどさ。でも良太ちゃんにへらっと言われると、こっちもああそうか、ってなっちまう」
やっと、ここまで来たんだからな。
良太はふと思う。
そうだよな、工藤には大きい負債があるわけで、工藤がこれから誰かとどうなろうと、俺はそれを返して行かなくちゃならないわけで。
それに、仕事のいろはを覚え始めたところで、辞めますなんて言えないよな。
ここまで来たんじゃない、子どもを谷に落とすライオンのごとく工藤に丸投げされて鍛えられてきたわけだし。
その工藤がフラリと立ち寄ったのはしばらくしてからだった。
「おう、映画、前評判よさそうじゃねえか」
ちょうど休憩が入ったところで坂口が早速声をかけた。
「まあな」
「たまに息抜きしねえと、くたばっちまうぞ」
「見ましたよ、ビジュアル、すごいですね。檜山さん」
軽口をたたく坂口に溝田監督や宇都宮までも参戦して盛り上がっている。
「俺もみましたけど、トレイラー、匠がすごいことになってる」
コーヒーを配っていた森村が良太にコーヒーを渡しながら、工藤らの話を耳にして言った。
「いや、ほんと、すごいよな、匠」
美しさと幽玄さと、そして一気にドアップになった時の匠の目の怖さと来たら、思わずぞっとしてしまうくらいだったと、良太はネットで見た映像を思い返す。
それから次の休憩に入る少し前だった、良太が少し離れたところからロケのようすを窺っている女性に気が付いたのは。
「え、あれって……」
長身にパンツスーツ、長い髪をゆるくハーフアップにして腕組みをしてこちらを見ている。
その時、カットがかかり休憩に入った。
「初めて見たわ、ロケ」
その声に工藤は振り返った。
「クロエ」
「や、ちょっと買い物して食事してたんだけど、人だかりになってるから見たら高広がいるし」
香坂はにこやかに近づいてきた。
「ふーん、これが高広の現場か」
香坂に気づいたのは良太だけではなかった。
「あの人、交流会にいた人ですよね」
森村は良太に聞いた。
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