「俺にできることがお前にできないはずがないって人だから。いや、俺、辛うじて喋ってますけど日本語、読み書きは未知に近いんで。アプリのインストールだとか日本語じゃないですか」
森村が苦笑する。
「預かってもよければ設定しとくけど」
「ああ、お願いします。当分古い携帯使ってるんで。パスワード俺の誕生日」
良太は森村の携帯を空いている方のポケットに入れた。
いつになく忙しない夜だった。
撮影が始まって数分経った頃だろうか。
良太は肩を叩かれて振り返った。
香坂が立っていたので驚いて、危うく声を上げそうになった。
香坂は歩きながら良太を手招きした。
仕方なく、良太は現場を離れ、香坂の後について行った。
「あの、何か?」
ロケ現場から離れ、声を上げても差しさわりのないところまで来ると、良太は訝し気に聞いた。
「ちょっと良太ちゃんと話したいと思ってたのよ。何か忙しそうだけど、どこかで時間作れない?」
いきなりの香坂の申し出に良太は面食らった。
「え……? あれ、工藤さんは?」
「とっくに行っちゃったよ。高広もえらく忙しいみたいだね」
「あ、そうでしたか」
気が付かなかった。
というか、何もこっちには声もかけてこないのな。
ま、いいけどさ。
「えっと、すみません、ちょっとここのところ忙しくて、また時間が空けばご連絡しますけど」
「じゃあよろしく。今日は久しぶりに銀座に出てみたのよ。日本に来てから私も忙しくて、あんまり出歩いてないし、ここいらも変わったね~」
香坂は感慨深げにあたりを見回した。
「ずっと向こうにいらしたんですよね」
「そう、親戚がこっちにいるので、葬式とかで十年前ちょっと日本に来たけど、とんぼ返りだったからな」
すると良太のポケットで携帯が振動した。
取り出すと、ラインのメッセージで、天野からだった。
「あ、じゃあ、また連絡して」
香坂はそう言ってたったか去っていく。
メッセージを見ると、タイバーを見つけたので今度届けます、とあった。
よかった、あったんだ。
ちょっとホッとした良太は、ご足労かけるのは申し訳ないので、事務所に預けておいていただければ、取りに伺います、と返信する。
その間、数分だった。
顔を上げた時、数十メートル先で、通りに止まった車が人を引き込もうとしているのが見えた。
「え?!」
良太は走り出した。
あれって、香坂先生?!
良太が追いつく前に車が走り出す。
黒塗りのバンだ。
良太は走りながら、ちょうどタクシーが来るのを見て慌てて止めた。
「すみません、前の前走ってる黒いバン、後を追ってください」
まさか、ドラマの撮影じゃあるまいし、と良太は思う。
タクシーの運転手は、返事だけを返して、バンを追った。
良太は信号で停まった時、辛うじてバンのナンバーを見た。
『波多野さんに連絡して。香坂せんが拉致された。黒のバン、品川―さ―xx20、今タクシーで後を追ってる』
運転手に内容を聞かれないように、良太はラインで森村にメッセージを送った。
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