霞に月の78

back  next  top  Novels


 だが今回に限っては、良太だけでなく森村まで現場を離れるわけにはいかず、森村には良太の不在を適当な理由をつけてごまかすように言っておいた。
 とにかく撮影が終わるまでは森村に現場にいてもらわなくてはならない。
 良太は携帯を握りしめて、フロントガラスの向こう、一台前を走る夜の闇に紛れそうな黒いバンを目を凝らして見つめていた。
 やがて車は平和島出口を降りて、大井ふ頭の方へと走っていく。
 タクシーの運転手は物も言わず、倉庫街をひたすらバンを見失わずに後に続いている。
 と、次の信号で前を走る保冷車が右ウインカーを出して車線を換えたので視界が開けたが、ちょうどそこで信号が赤になった。
 やきもきしながら黒いバンを見失わないようにと見つめていた良太は、数十メートル先で左折してどこぞの倉庫らしきところへ入っていくのを確認した。
「すみません、次の通りで左折して停まって下さい」
 信号が青になると、良太は運転手に言った。
 支払いを済ませてタクシーを降りた良太は、さっきバンが入って行った倉庫まで急ぎ足で戻り始めた。
 その時、良太のポケットで携帯が振動して、ドキリとする。
「げ、工藤? 何で?」
 もしや香坂のことを聞いて電話してきたのか?
「はい、お疲れ様です」
「今、どこだ? 急ぎの仕事って何だ? 森村一人で大丈夫なのか?」
 香坂のことを聞いたわけではないようだ。
「あ、はい、ドキュメントのことでちょっと。モリーには何かあったら連絡するように言ってあります」
 どうしよう、香坂のことを話した方がいいだろうか。
「そうか。俺もなかなか身体が空かないが、あんまり忙しいようならスケジュールを調整するが」
「いえ! 大丈夫です。すみません」
「そうか。何かあったら連絡を入れろ」
 いつものように電話はブチっと切れたものの、久々工藤の声を聴いた気がして、良太は何だか目がウルウルしてきそうになった。
「いっけね、バイブも消しとこ」
 振動音も静かな場所で聞くと結構響くものだ。
 良太はバンが入って行った倉庫の前にくると、写真を撮り、大井ふ頭の倉庫だと千雪に送った。
 どこかの会社の倉庫だろう、積み上げてあるコンテナにはどれもSNNと書かれている。
 良太はバンを見つけて、そっと近づいた。
 中は誰も乗っていないようだった。
 とすると香坂は、この倉庫の中に連れていかれたのか。
 良太は倉庫の壁に沿って歩き、窓を見つけてそっと中を覗き込んだ。
 暗闇の向こうに明かりが見えた。
「こんなとこに連れて来てどうするつもりよ!」
 香坂の声だ。
 どこにいるんだろう、ともっと見ようと良太は窓に近づいた。
「てめ、何もんだ?」
 頭にあてられた筒形の硬いものに、良太は身体をびくっと震わせた。
 まさか銃口、とか?!
 ドラマの見過ぎかと思いたかったが、怖いもの見たさに振り返った良太は、突き付けられているものが確かに拳銃だとはっきりと知ることとなった。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます