「あ、いや、決して怪しいものでは………」
そんな言葉が通用するはずもなく、良太を倉庫の中へと歩かせると、男は良太を床に蹴り飛ばした。
薄暗い灯りの下で男を見ると、顔に全然あってないがブランド物のスーツにピカピカの靴、こてっと整髪料で固めた頭、そして何と言っても目つきの悪さが見るからにヤのつく商売をしているに違いないだろうことが一目瞭然だった。
「怪しくないやつが夜中にこんなとこで何やってるんだ? あ?」
男は良太に凄んで見せた。
「クロ、何だ、そいつは?」
中にいた二人の似たような悪党面が現れた。
「外から中を覗きこんでやがった。始末しますか」
良太はぎょっとした。
こんなところで始末なんかされたくないぞ。
「まあ待て。おい、てめえ、何もんだ? 何でここにいる?」
クロと呼ばれた男の上司というところか。
黙っていると、顔を覗き込んでいた男に良太はいきなり頬を張り飛ばされた。
「私の部下よ!」
悲鳴のような声が倉庫内に響き渡った。
「大学の! きっと私を連れ去るところを見て追いかけてきてくれたのよ!」
良太は声の方を向いた。
香坂は椅子に座らされて後ろ手に縛られていた。
「へえ、大学?」
「T大の法医学教室!」
香坂はまた声を張り上げた。
機転を利かせて、良太が工藤の部下と知られない方がいいと考えて香坂がでっち上げたのだと、良太もわかった。
香坂先生、工藤絡みだとわかってるみたいだ。
見るからにヤっちゃんだもんな、こいつら。
良太はその時、わざと左ポケットに手をやった。
「ん? 携帯か、出せ」
目の前の男はすぐに察して凄んだ。
良太はポケットから携帯を取り出して渡した。
すると男は床に落として靴で踏みにじった。
あーあ、モリーの携帯、おじゃんになっちまった。
新しいの買ってやらないと。
たまたま森村の携帯を預かったお陰だし。
とりあえず携帯を渡しておけば、もう一つ良太の携帯があることに気づかないかも知れない。
「こいつも女と一緒に縛っとけ」
良太を連れてきた下っ端らしい男は命じられるまま香坂の隣の椅子に良太を縛り付けた。
「クロ、見張っとけ」
リーダーらしき男は下っ端の男に言った。
「河西さん、男の方、どうします?」
「何かに使えるかも知れねえ。おやっさんに聞いてからだ」
「わかりました」
河西と呼ばれた男は一度、香坂と良太を一瞥すると、もう一人を従えて倉庫を出て行った。
やがてエンジン音がして車が出て行ったようだ。
「フン、工藤なんかに関わったのが不運と思え。下手なマネすんじゃねえぞ」
二人が出て行くと、下っ端のクロはまた香坂と良太に凄んでみせ、トイレへと向かった。
「すみません、先生を巻き込んでしまって」
良太は小声で言った。
「高広には知らせたの?」
「やつら、おそらく先生をたてに工藤を潰そうとしているので、知らせるとやつらの思うツボなんで。ですが、仲間がもうこっちに向っています。今ちょうど、ヤツ一人しかいないし」
だが、そううまい具合にはいかなかったようだ。
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