霞に月の86

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 赤ら顔は出てきた良太をまたきっちり後ろ手に結束バンドで縛り、背中を突き飛ばすようにして歩かせて部屋まで連れて行った。
 ところが、良太を蹴り入れた赤ら顔の背後から、どうやってか緩んだらしい結束バンドを香坂が赤ら顔の首に回して思い切り引いた。
 それに気づいた良太はすぐ起き上がると、二人がもつれて赤ら顔が下になって倒れ込んだところを加勢して赤ら顔の上に馬乗りになって抑え込もうとした。
 だが、ドタバタしている音に気付いた赤ら顔の手下が駆け付けた。
「てめえら!」
 赤ら顔よりひょろっと背の高い男は、赤ら顔の上に乗っている良太を思い切り引き剥がすと壁に叩きつけ、香坂を平手打ちして床に突き倒した。
「大丈夫っすか?」
「しっかり縛り上げとけ」
 赤ら顔は手下に命じると香坂に向って唾を吐き、部屋を出て行った。
 手下は床に突っ伏している香坂の両手をまた結束バンドで縛り、「フン、ジタバタできるのも今の内だ」と下卑た笑いを残してドアを閉めた。
「……香坂さん」
 強か壁に打ち付けられた良太は床に倒れたまま動かない香坂ににじり寄った。
「大丈夫ですか? 香坂さん」
 するとようやく香坂は大きく息を吐いて、「大丈夫……。ゴメン、ヘタしちゃった」と目を開けた。
 それを見て、「よかった……」と呟くように言うと、良太は意識が白濁していくのを感じた。
 さっき手下に壁に打ち付けられた時、頭を打ったようだ。
「え、良太ちゃん!? 良太ちゃん!」
 今度は香坂が良太の方へ這っていきながら良太を呼んだ。
 香坂の呼ぶ声が次第に良太には聞こえなくなっていく。
 俺、なんか、こんなとこで死ぬのいやだなあ……。
 もう一回くらい、工藤の顔見てから死にたかったなあ……。
 そこで意識が途絶えた。
 

  
 

 
 ちょうどその頃、倉庫会社の位置を特定し、車を降りて築数十年は経っているだろう事務所らしき建物の外までやってきたのは森村と辻、将太、加藤、それに千雪の五人だった。
 最初に門をくぐり偵察に向ったのは森村だ。
 闇に紛れて足音も立てずに敷地内に侵入した。
 灯りがついているのは事務所で、左側のシャッターが開いたままのガレージには車が三台、鈍い灯りがついていて、中で五、六人の若い男らが屯している。
「あ! クッソ、やられちまった!」
「うわ、うまそ、これ! 腹減ったあ」
「ち、寒くね? ほんっとに来んのかよ、その工藤ってやつ」
「来るだろ。やっぱ、自分の女くれぇ取り戻さねぇとさあ」
「俺なら、殺られるってわかってたら女なんかどうなろうとぜってぇ来ねぇ!」
「だからてめぇには女が寄り付かねえんだよ」
「ってえ! ……タマはたくな!」
 どうやら下っ端らしい連中は酒を飲み、携帯でそれぞれゲームをしたりSNSを見たりしながら、くだらないことをしゃべっている。
 


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