霞に月の89

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「うーん、けどそれ、DVとか思われると、いろいろ聞かれるか知れんし、少し我慢でけるんやったら俺の知っとる病院に行きますけど」
「いいわよ、根掘り葉掘り聞かれるのは嫌だし」
 千雪は午後から夜間にかけて開けていると言っていた神田明神の加賀に携帯で連絡を入れた。
「今から一人見てもらいたいんやけど、ええです?」
「おう、千雪、今度は何をやらかしたんだ?」
 十回目のコールで電話に出た加賀はへらっと笑った。
 三十分ほどで着くと告げて携帯を切ると、千雪はアクセルを踏んだ。
「あああ、何か段々腹が立ってきた」
 唐突に香坂が言った。
 助手席の香坂は腕組みをして、フロントガラスを睨み付けている。
「ほんま、とんでもないやつらや。女性の顔を殴るやなんて! 殴ったやつらに倍返ししたりたい!」
 千雪も殴られて腫れている香坂の顔を見るにつけ痛々しく思う。
「まあ殴られて腫れるとか、ボクシングとかやってたから慣れてはいるけど」
「え、そうなん?」
「私が頭に来てるのは高広よ!」
 ああ、と千雪も頷いた。
「怪我してる先生俺に押し付けて行ってまうとか、あの人業界では鬼、言われとるらしいし」
「そうじゃなくて!」
 香坂が喚いた。
「付き合ってる彼女とかいるかって聞いたら、いないって言いながら煮え切らない返事したのはこういうことだったわけでしょ!? 私がそんな偏見持ってるように見える? 良太ちゃんと付き合ってるんならはじめっからそう言えばいいじゃない!」
「ああ、そっちですか…」
 デートした女性俺に押し付けて良太だけ連れて行ってまうとか、一目瞭然やわなあ。
 千雪は感心すらしてしまう。
「というか、良太ちゃんとちょっと話したけど、そういうことなら良太ちゃんと高広、まったく意思の疎通ができてない!」
「ほんまに! それが悪い。工藤さんの、いうてることとやってることがちぐはぐやから、良太を悩ませてしまうんや。いくら背中に重荷を背負ってるいうてもや」
 千雪も段々憤りがエスカレートしてくる。
 そもそも香坂センセがこんな目に合うとるんも、工藤さんが煮え切らんからや!
「それで、この車は千雪くんの?」
 いきなり話が飛んだ。
「京助のんですけど?」
「あのさ、千雪くんにも軽く頭に来てるんだからね」
「俺? 心当たりあれしまへんけど?」
 首を傾げる千雪に、香坂はハア、と大きくため息を吐く。
「いつものコスプレ無しだとその美形ヅラ、詐欺じゃないの」
「あ………」
 ようやく千雪は今日の香坂は何をジロジロ見るんだろうと思っていた答えに辿り着いた。
「ハハ、ほぼコスプレのことなんかはどこぞに飛んでってしもてたわ」
「まあいいわ。それより、あいつら、ほんとに放って来てよかったの? 警察とかは?」
「ちゃんと専門家に連絡してありますよって」
 香坂はまた眉を顰めたが、おそらくヤクザを叩きのめしたのが良太の言っていた仲間で、あっという間に撤収するところといい只者の集まりではないらしいことも想像がつくというものだ。
「とにかく、一度、高広をつかまえていろいろ白状させないと」
 断言する香坂に、千雪は内心、こわ、と呟いた。

 


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