「でも律儀だなあ。あ、ひょっとして事務所ってここだと思ったのか? 天野さん」
事務所に届けてくれれば取りに行くとメッセージを送ったことを思い出した。
早速携帯にお礼のラインを送ると、すぐに天野から電話が入った。
「あ、すみません、俺、スカイプロモーションの事務所ってつもりだったんですけど、言葉たんなくて、わざわざこちらまで届けてくださって、ありがとうございます」
「いえ、今日は前半オフだったんで、それに、工藤さんと初めてお会いできたし」
「え、工藤に?」
良太は意外な話を聞いた気がした。
「業界で評判の鬼っていろんな人から怖いって聞いてたから俺ちょっと緊張しちゃって、でもなんか優しかったですよ。船岡さんのこともご存じみたいだったし」
良太は思わず笑った。
「いくら鬼でも何もないのに怒鳴ったりしませんよ。昭和のオヤジだから義理人情には厚いし」
だよな、誕プレくれるくらいには。
「撮影始まったら覚悟しとけってことですね」
「ほんと血圧があがるだけだからいい加減にすればいいのに」
今度は天野が笑う。
「いい関係なんですね、社長と」
いい関係、か。
良太は苦笑する。
「わざわざほんと、ありがとうございました」
「いえ、これにこりず、また飲み行きましょう」
天野ともいい感じで付き合えてよかったと、電話を切ってから良太は改めて思う。
エレベーターでも睨まれたし、秋山から昔の因縁を聞いた時はうまくいくのか不安があったのだが、それこそいい関係で撮影に入れそうだ。
今夜はレセプションパーティだっけ。
映画の前評判も上々だし、いくら工藤がパーティ嫌いでも出ないわけにはいかないよな。
「さてっと、部屋もどろ」
良太は明かりを消してドアをロックすると、確かめるようにポケットのタイバーを握りしめながらエレベーターへと向かった。
「どうしたんですか、その顔!」
これで何回目かの同じセリフに、息苦しくてマスクをとった香坂は夜のシフトでモルグにやってきた院生を無言で睨めつけた。
「転んだんですか? 気を付けてくださいよ、若い時と同じことをやってもこけることありますから」
歯に衣着せるということを知らない院生は周りが何と思っているかなどお構いなしな性格だ。
小林千雪の同類だな。
香坂は次にドアを開けて入ってきた京助と目が合った。
「お疲れ様です」
千雪から詳細を聞いているのだろう京助は、表情も変えずにすれ違った。
昨夜あれだけのことがあったのに、しっかり労働している自分にご褒美を上げたいとは思う。
だが、おかしなことに怪我をさせられたことより、相手が成敗されたことに対してざまあみろ的な感覚からかドーパミンが出続けているせいなのか、顔の怪我が時々痛むくらいで今日一日快適に仕事をこなした。
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