風そよぐ146

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「プリントアウトしますか?」
「ああいや、いい。必要なとこチェックしたから。良太、七月もかなりタイトだねぇ。ちゃんと夏休みはもらいなよ」
 モニターから顔を上げて秋山が言った。
「うまく何日か取れればとは思ってるんですが」
「どこか行くのか?」
「いやあ、熱海の親のところに行くくらいですかね。秋山さんは?」
「俺は飛び飛びでもいいんで、まったくオフって日があれば部屋でグータラしてるよ」
 苦笑する秋山を見て、良太は、この人ってプライベート謎な人だよな、と思う。
 元エリート商社マンで、何かの濡れ衣を着せられて、濡れ衣とわかった時には婚約も解消になったと聞いているが、その後、彼女はいるのかすらわからない。
 いや、いないか。
 だって、もうアスカさんべったりだし、無理だよな、彼女作るのとか。
 谷川さんは元刑事で、身内がヤクザと結婚したせいで刑事でいられなくなって、離婚もしたとかいう話だし、秋山さんといい、世の中に辛酸をなめさせられたせいでどうも人を信じられなくなっているらしい。
 俺も、工藤に会わなければ、もっと悲惨な人生送ってたかもな。
「俺もさ、犬か猫でも飼おうかと思ったりするんだけど、留守がちだしね。良太みたいに、面倒見てくれる人がすぐそばにいればいいけど」
「ああ、そうですねぇ」
 引っ越しすると言っても、やはりネックは猫たちだ。
 ペットシッターにお願いするとしても、しょっちゅう頼んでなくちゃいけないかもしれない。
 それもメンドイよな。
「やっぱ、にゃんこたちのことを考えると、引っ越しとか難しいよな」
「え、何、良太、引っ越すのか?」
 うっかり口に出してしまってから良太は、いけね、と思ったがもう遅い。
「いや、何ていうか、その………、俺もこの会社に入ってもう四年経ちますし、いつまでも工藤さんの恩情に頼って、ほとんど家賃ただの部屋に住まわせてもらってるのも………とか」
「は、何言ってるの、良太がここに住んでいるからこそ、みんな良太を頼りにできるんじゃないか。それにさ、工藤さんの恩情っていったら、俺らみんなってことになるぞ? 良太もわかってると思うけど、給料は破格だし、休みを取りたいっていえばスケジュールさえ合えば取らせてくれるし、そんじょそこいらのブラックとは違うだろう?」
 良太はハハ……と笑う。

 


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