それでも、予定していたカットの撮影は予定の五時より一時間ほど早く終わり、終わった途端、スタッフ共々固唾をのんで見守っていた俳優陣も、緊張の後の解放感を感じたようだ。
工藤はあまり口を出さず、匠と日比野のやり取りや撮影をじっと見つめていた。
工藤も匠をホンモノだと思っているからだ、と良太は思う。
良太も工藤と何年かのつきあいで何となくわかってきた。
ホンモノと思う相手には文句は言わない。
竹野に対してもそうだった。
竹野は工藤に何か言ってほしかったようだが、工藤はそれだけ竹野を認めていた。
逆に、ひどい芝居を見せられた日には、文句を言ってよくなればよしだが、ガンガン言ってそれでもあまりにどうしようもない時は、主役であろうがキャストを降ろしてしまう。
昔、工藤がとある人気女優を降ろしたところに出くわした良太は、工藤にこそっと文句を言ったことがあったが、今ならわかる。
本谷に対しても学芸会以下と最初はひどい言い草だった。
撮影からオフィスに戻ってきた工藤からは殺気さえ感じられた。
だが、彼の場合は、大手が本谷のために用意したドラマで、しかも工藤は知り合いに頼みこまれての仕事だった。
でなければとっくに降ろしていたかもしれない本谷だが、工藤の予想に反してか否か、打たれ強かった本谷は、学芸会以下から辛うじて這い上がり、何と、CMも数本、ドラマもちょくちょく出るたびに徐々に力をつけてきた。
一生懸命で伸びるだろう本谷だからこそ、気を使ってやったのだ、と思う。
多分、そうだと、思うんだけど。
ちょっとそこにはまだ引っ掛かりはあるが。
って、何、俺、工藤の弁護みたいなこと考えてんの。
「じゃあ、明後日からは嵐山の方に移動するので、よろしく。明日は一日、英気を養って」
日比野の言葉にスタッフが沸いた。
「いつまでこっちいるんだ? 良太」
匠が良太に声をかけた。
「ああ、明後日の昼までには東京に戻らないと」
「そうか。明日は?」
「明日はちょっと現場を見ておこうかと思って、嵐山とか」
「少し早く終わったから今からでも行くぞ」
匠との会話に工藤の声が割り込んだ。
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