「ちょ、やめてくださいよ、俺、もうアラサーで」
「うん、良太ちゃんは可愛いよ」
奈々までが話を聞きつけて断言してくれる。
「奈々ちゃんにまで言われたら俺立つ瀬がないよ」
またどっと笑いが起こる。
天才能楽師なんてどう対応したらいいだろうなどと尻込み気味だった良太だが、匠は最初はちょっと違和感ありだったが、普通に周りと馴染んでいる。
タカヒロ! にはちょっと引っかかるけどさ。
工藤がいない時はおそらくまた良太が顔を出すことになるだろうことはわかっていたが、山之辺芽久や竹野みたいな癖のある俳優と匠は違うようで、良太はほっとしていた。
『大いなる旅人』は小笠原でなくても、良太も気になる映画で、少しでも関われることは嬉しかった。
一行はまた高雄に戻り、やがて撮影が再開された。
匠は日比野の話を聞いて良太が思っていた以上に、舞のシーンにはこだわりをもって臨み、何度もテイクを重ね、時には日比野と言い争うかのように、時に舞の仕草を実際に示しつつ、一つ一つ丁寧に創り上げていく。
ヤギさん並みだな。
そして一つのシーンがこれぞとなった時、カットがかかるまでの舞の優美さは、芸術などにはトンと縁がない良太にも、十二分に伝わってきた。
ホンモノだ。
朗々と謳いあげるように響く声は、さっき話している匠とは全く違って、どこか人間離れしている気がした。
科白はどうなんだろうという疑念も、すぐにどこかへ消し飛んだ。
さすが千雪さんの紹介だけある。
ん? あれ? タカヒロなんて言うから、そっちに気を取られてたけど、千雪さんじゃなくて、研二さんの知り合い?
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