風そよぐ198

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「この山々全体を背景に匠の舞を重ねて見せる。確かに秋や冬もいいが、この新緑から深い緑へと連ねる色の波を幾重にも重複させて広がりを表わす」
 って仕事の話かよ。
「新緑から深い緑、ですか。ああ、そうですね、匠の雰囲気って、そんな感じですよね、朝露が乗っかった緑みたいな」
「珍しく、文学的なセリフじゃないか」
「うるさいです。俺だって本くらい読みますから」
 軽く揶揄する工藤に良太は抗議する。
「どうだ、匠は」
「やっぱ、撮影になるとまるで違いますよね、話してる時と、ホンモノってか。能とか俺見たことないですけど、匠の舞とか見てて、幽玄っていう単語の意味がやっとわかりましたよ」
「お前、能もみたことないのか」
「すみませんね、そんな暇ないし」
「今度、手配してやろう」
「え、いいですよ、そんな」
「遠慮するな」
 いや、遠慮ってより………。
「あ、そういえば、前に、佐々木さんが、たまに能を見に行くとか言ってました。やっぱクリエイターはいろんなところからひらめきを得るってことですよね」
 タクシーに戻ると、嵐山に向けて走り出した。
「HIDAKAの方は、佐々木さんは手一杯らしく、角田まどかを使うらしい」
「角田まどか、って、大岡クリエイトの? 大手ですね」
「昔、河崎と一緒に仕事をしたことがある」
 角田まどかって、佐々木さんと肩を並べるクラスのクリエイターだよな。
 確か、工藤くらい?
 う………、またまた、新たな女じゃないよな。
 ああああもう、バカなことしか考えられないこの頭を勝ち割りたい!
 良太は一人つまらないことで頭をぐるぐるさせる。

 


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