「水野さんはいい感じだよね。残念ながら僕は視界に入らなかったみたいだけどさ」
「いじけなくても、水野さん、実は気さくな人みたいです。ヤギさんに言わせると気に入った人間じゃないとなかなかしゃべらないそうですけど」
それにしても、水野さん、やたら佐々木さん気に入ってたよな。
それはそれで、ちょっと、気になるところだけど。
ただし、沢村の耳にでも入ったら、こっちまでとばっちりを受けそうなので、黙っておこうと良太は思う。
プラグインで、藤堂と佐々木を降ろすと『田園』の脚本家、坂口から、スタジオを覗くようにも連絡を受けていた良太は世田谷へと向かおうとした。
そのあとは下柳の待つスタジオに籠ることになっている。
「何か、差し入れ、買っていくか」
その時、ハンズフリーにしている携帯が鳴った。
「アスカさん、え、携帯忘れた?」
今『田園』の撮影に入っているアスカからで、オフィスに携帯を忘れてきたからスタジオまで持ってきてと言うのである。
「アスカさん、よく忘れるし、携帯」
アスカは翌日朝には今撮影中のコメディドラマで長野ロケに向かうことになっていた。
良太は仕方なく乃木坂に取って返し、アスカの携帯を持って『田園』の撮影が行われているスタジオへと向かった。
難航した『田園』のキャスティングだが、坂口にごり押しされて結局青山プロダクションの女優二人ともが出演することになり、竹野のクラスメイトで竹野に絡むことが多くなりそうだと思った南沢奈々は、さほど出番もなく、北海道での卒業のシーンとスタジオで二回ほど撮影に及んだくらいで終わったのだが、主役の宇都宮の妻の後輩で大学から宇都宮の病院に派遣されている医師という役のアスカの方が出番が増え、宇都宮の不倫を垣間見てしまうキーマンにすらなってきている。
シーンが増えていることにスタジオでは文句も言わずに仕事に専念するところはプロだ、と良太も思うのだが。
「あたしはきりりとしたナースとか、たまにはやってみたいのに、まーた、我儘な医師役とかよ? 原作にないじゃない、我儘とか横暴とか!」
昨日もオフィスでは言いたい放題だった。
「ハハ、ナースとかアスカさん無理でしょ。もう雰囲気が女王様だし」
また良太が歯に衣着せずド直球で笑う。
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