八月も半ば、軽井沢にある工藤家の別荘には珍しく賑わいがあった。
旧盆の頃には、夏まつりや花火大会などが目白押しで、ただでさえ避暑地として名高いこの街は一気に人口密度が高くなる。
そんな中、乃木坂にある青山プロダクションの社員や俳優陣とその家族もこの軽井沢に集い親睦会が行われることになったのは、ゴールデンウイーク明けに今やこの会社の司令塔と言っても過言ではない、広瀬良太が親睦会の日程や場所を募った結果だった。
昨年は新年早々東京のホテルで行われた親睦会が好評に終わったが、今年は長年工藤家の別荘で切り盛りしていた家政婦の杉田の誕生日が四月、乃木坂のオフィスの主のような鈴木さんの誕生日が七月ということで、親睦会で一緒にお祝いしよう、ということになったのである。
花火が見たい、と言い出したのは、青山プロダクションの看板俳優、中川アスカだ。
いつぞや見た、江戸川の花火が今年はスケジュールの都合で見られないので、どうせなら親睦会をその頃にやって花火も見たい、とごねたのだ。
「でも、花火大会、お盆真っただ中ですよ? 移動にも時間かかりますし、人手もすごいですし」
良太はお盆を避けた方がいい理由を挙げて、アスカの思惑を阻止しようと試みた。
だが、アスカは頑として聞かない。
「何とか行ける方法を考えてよ、良太」
無体なことを言ってのけるアスカを、「親睦会ですよ? 参加する皆さんのことも考えないと」と秋山が窘めるのだが。
「あら、奈々ちゃんも小笠原も、花火見たいって言ってたわよ」
アスカの思惑は、参加者にも打診してみたところ、花火や夏祭りがいいという意見が多数集ったため、結局のところ帰省ラッシュやUターンラッシュに合わないようあらゆる移動手段を良太が考えに考えて何とかこの親睦会にこぎつけた、というわけである。
「何だってラッシュで混む時にわざわざ軽井沢くんだりに行くんだ!」
案の定、社長の工藤が一言吠えたものの、この日程が覆ることはなかった。
なにせ、南澤奈々とアスカ、小笠原祐二と言った俳優陣がちょうど軽井沢の花火大会の十四日前後が珍しくオフということが決定打となった。
俳優の志村嘉人一人だけ、親睦会の十三日の夜にはマネージャーの小杉を伴って東京に発たねばならなかったが、小杉の妻子は三日程を軽井沢で過ごすことになっていた。
既に昨年の親睦会で顔を合わせている社員の家族らは、みんな軽井沢での休日を楽しんでいる。
車で移動予定の者は極力ラッシュを避けて、十二日か十三日までに軽井沢入りし、十七日以降に移動することにし、どうしても十四日から十六日にしか動けない者のために、良太は早々と新幹線の指定を取った。
もちろん、工藤の別荘は過ごしやすいが、総勢三十数名となれば、ホテルを取るしかない。
せっかくなので参加者にはグレードの高いホテルやコテージを選んでもらい、良太は早々と押さえておいた。
良太の両親や亜弓もコテージなら一家で過ごせると喜んでいる。
だが何が気を使ったかといって、いつもなら面倒をみてくれる鈴木さんも軽井沢に来ているので、必然的に良太は猫二匹も連れての移動となっている。
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