「一回くらいやったらいいじゃないですか。俺のダチもGWに結婚式や披露宴やったんですけど、親同士近くに住んでるくせに、やり方がどうの場所がどうのと散々もめて、でも何とかやったら、どっちの親も感激してましたよ」
肇とかおりの披露宴を思い出して、良太は失笑する。
「そうねえ、式だけならいいけど、田舎の披露宴なんて考えただけでいや」
万里子がため息を吐く。
「そうですか?」
「東京もんにはわからないわよ。ど田舎の親戚が集まって大騒ぎする披露宴なんて」
「大騒ぎですか」
大騒ぎと言えば、思った通り、肇の友人として良太と一緒に関西タイガースの沢村が現れたため、一時騒然としたものだった。
それでもお陰で会場内での肇の株が上がったともいえる。
最後は沢村も一緒に写真に納まって、披露宴など嫌だとごねていたかおりもご満悦だった。
そんなことをかいつまんで良太が話すと、「田舎の男どもの大騒ぎって、そんな甘いもんじゃないの」と万里子が首を横に振る。
「とにかく飲めや歌えで、女性たちにお酌させて、下品なセクハラ暴言吐いて、冗談じゃないわ」
「まあ、田舎はな、どこもそんなもんさ」
井上が苦笑する。
「じゃあ、式だけご実家でやって、披露宴は東京でやったらいかがです?」
「そうねえ、仕事の関係もあるからって押し通せば、こっちでやってもいいわね。でもだったらめんどくさいから式もこっちでやるわよ」
良太の提案に万里子は少し動かされたようだ。
「そうだな、東京なら新潟の兄貴とかも呼びやすいし」
急に二人の間で、結婚式が現実味を帯びてきた。
「でもやるんなら、私がオフの時、一気にやっちゃわないと」
「っていつならいいんだよ?」
「うーんとねええ、今年なら十二月の第二週? 来年なら二月の終わりとか?」
それを聞くと、「結婚式、ほんとにやるんならできれば十二月は避けていただくとありがたいんですけど。うちからもお祝いしなくちゃいけないし、ひょっとして社長呼ぶとかします?」と良太も二人の会話に割って入った。
「社長って俺のことか?」
いつの間にか工藤が階段を下りてこようとしていた。
「他にいないでしょ。そうよね、工藤さん忙しいもんね、師走なんて。じゃ、二月にしよ? 俊一は平気?」
「俺の方はまあ、リスケすれば」
工藤は怪訝な顔で三人を見やると、キッチンに行った。
やがて工藤の後ろから平造が、氷とグラスを持って現れた。
「お前も飲むか?」
工藤が平造に聞いたが、「いや、私は結構です」と遠慮する。
「あと何かなければ、部屋におりますんで」
「ああ、お疲れ様」
自分の部屋に戻る平造にしばし目をやってから、工藤はサイドボードからコニャックを取り出すと、氷を入れた四つのグラスに注いだ。
「何を企んでるんだ?」
工藤はグラスを三人に渡しながら聞いた。
「ありがとうございます。結婚式やろうかと思って」
グラスを受け取ってから万里子が言った。
「結婚式?」
工藤は意外そうな顔で万里子を見つめた。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます