「万里子さんたち、結婚式やってないから、ご両親からせっつかれているってことで」
良太が説明した。
「田舎でやれとかって親が言うんだけど、親戚連中うざいから、やっぱ友人知人、それにお世話になった人も呼びたいし」
グラスの酒を飲んで、美味しいと言いつつ、万里子は工藤を見た。
「二月の終わり、工藤さん一日くらい空いてるわよね?」
「ああ? いや俺は…」
「この際、万里子さんのご両親にも挨拶くらいした方がいいですよね?」
拒否ろうとした工藤を遮って良太が念を押すように言った。
「あら、もちろん、良太ちゃんも来てくれるわよね?」
「え、俺もですか?」
「だって私、あんまりお友達いないし、アスカや奈々ちゃん、鈴木さん、菊池さん、他、会社の人みんな来てもらわないと。ああ、でもアスカとか奈々ちゃん、都合がつけばだよね。あとは、大秦監督と島田先生、関本先生」
万里子は楽し気に招待客の名前を口にした。
「でもいいなあ、かおりさんたち、沢村選手が披露宴来てくれたなんて。母が神戸出身で関西タイガース好きだから、私も大ファンなのに」
「千雪さんはどうすんだよ?」
井上が言った。
「そうよね! 千雪さんにも来てもらわなきゃ」
良太は盛り上がっている二人を見て苦笑を漏らす。
「ご両親、ちゃんと送って来たか」
不意に工藤が良太に聞いた。
「はい、同僚とか知り合いに買う土産をギリまで選んでるから、こっちが焦りました」
工藤が良太の両親のことを気にかけてくれているのはよくわかっていた。
能天気な両親は、もうずっと熱海に暮らしていたかのように同僚や地元の人々と仲良くなり、たまに顔を覗かせる良太までが、百合子さんの息子ですっかり定着していた。
「百合子さんて、すんごく楽しい方よね、美人なのに気さくで。ほんと良太ちゃんのお母様って感じ」
結婚式の話に夢中になっていた万里子が、良太の話に反応した。
「はは、そうっすか?」
百合子は昨年の慰労会でもすっかりみんなと打ち解けて、今回もあちこちで笑顔を振りまいていたようだ。
杉田さんや平造とは料理やお菓子作りのことで専門的な知識を仕入れてきたらしく、今度はミルフィーユに挑戦すると百合子は宣言していた。
「じゃ、ここで決まりね。明日にでも連絡してみる」
万里子が言った。
「え、もう決まったんですか?」
肇とかおりの時は式場や披露宴会場や衣装や何やかやを決めるのに、ひと月はかかったと肇がぼやいていたのを記憶していた良太は、ちょっと驚いた。
「だって、工藤さんの都合がいい日と私のオフを重ねると二十二日の土曜日しかないのよ。式は前にドラマで利用したとこ、割とよさそうだから。披露宴は、百人くらいの会場、ほら、前にハロウィンパーティやったホテル、あそこなら欧米風で、田舎者の宴会にはならないでしょ?」
簡潔明瞭に万里子は答えた。
「予約できなければ他をあたるわ」
「俺は全然異存なし」
井上も軽く言う。
「来週から映画の撮影だと言ったな」
すぐに仕事モードになった工藤が万里子に尋ねた。
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