Summer Break19

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 腹ごなしに散歩に出ると、工藤は久しぶりに何も考えずにただ歩いた。
 普通の親なら甘やかされて育てられた一人息子だったろうはずが、それでなくても特にしつけに厳しい曽祖父に育てられた工藤は昔から同級生より大柄で大人びていたので、常に上から目線で周りを見る可愛げとは程遠い子どもだった。
 それでなくとも娘は家を飛び出してよもやという相手と結婚してしまい、その娘を引き取って育てたものの、これもまた米兵に引っ掛かり、子どもを残して自死したのだ、その直後の曾祖母は工藤をまた引き取ることで、何とか生きていられたらしいと、彼らと親しかった工藤家の弁護士森山の話を平造を通じて成人してから工藤は聞いた。
 仲のいい良太の家族を見ていると、良太をこんな風に手元に置いていることにやはり罪悪感のようなものを感じざるを得ない工藤だが、それでも仕事を離れて子どもの頃から親しんだこの屋敷に平造や杉田、それに良太といるこの時間が自分でも愛おしいと思うのだ。
 フン、そんなことを考えるなんざ、全く、歳をとったということか。
 新聞を二紙取っている平造は、あれで知識欲旺盛な男だ。
 環境が平造の少年時代から学びの時間を奪ってしまった故に、高校すらまともに通うことができなかったようだが、工藤の世話をするようになってからは、暇を見つけては独学で図書館に通ったり、工藤の曽祖父が残した本を読んだりしているし、それこそ料理などは独学で習得したものだが、プロはだしだ。
 高校の頃までやんちゃをしていたという吉川も、そんな平造に倣うように最近になって本を読んだりするようになったと自分で言っていた。
「平さんはまさしく俺の師匠なんで」
 二人は特に料理のことになると互いにいい刺激になっているらしい。
 平造の年を考えると、いつぞやぎっくり腰で入院したこともあり、ここに一人でいるのは心配ではあるが、近くに杉田にせよ吉川にせよ、知り合いがいてくれるので、今しばらくはこのままでいいかと工藤も思うことにした。
 あれやこれや言われても頑固な平造が簡単に動くわけもない。
 ここも昔歩いたなどと思い出しながら、大人びていただけでなく、横浜では学校でも祖母が極道と結婚したことなども噂になっており、大きくて強そうに見える工藤は遠巻きにされて浮いた存在だった。
 うざいクラスメイトがいないこの軽井沢は、工藤にとってもいろいろと探検できる面白さがあった。
 自転車であちこち飛び回り、夕方遅く帰って小言を言われたこともよくあった。
 中学に上がり、曾祖父が亡くなり、やがて曾祖母が亡くなると一人になってしまった寂しさはあったが、森山と一度会っただけの祖母多佳子に紹介された平造がいてくれただけで工藤は全く一人になることはなかった。
 口数も少なく不愛想な平造だが、曾祖母が作ってくれたことのないオムライスやカレーライスなどを子どもなら好きだろう料理を出されたことで、顔には出さないが工藤はすっかり気を許したのだ。
 

 


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