「いや、すぐ使うので簡単な包装で結構」
スタッフは工藤が急いでいると悟ったらしく慌てて、それでも一応タイが入った箱をそれ用の袋に入れてリボンをつけてなどとやっている。
だが睨みつけている工藤の顔を見ると、超特急でまたその二つの袋をブランドロゴが入った袋に入れて手渡した。
工藤は引っ手繰るように受け取ると、またたったか店を出る。
車に乗り込むと、既に一時を少し回っていた。
「あ、そうめん」
良太が口にするや、工藤はアクセルを踏んだ。
杉田がお昼は一時過ぎに素麵だと言っていたのを、工藤も気になっていたのだろう。
飛ばせば五分ほどのところを、道が混んでいたため別荘についたのは一時半近くになった。
それでも買い物袋を持って屋敷に入っていくと、杉田さんは笑顔でお帰りなさいと二人を出迎えてくれた。
土産にと買った酒などをはリビングに置いて、良太はパンナコッタだけ冷蔵庫にしまった。
「ケーキを焼かないとね。ぼっちゃんのお誕生日だし」
杉田の言葉に、「あ、そっか!」と良太は花火のことやパーティのことで工藤の誕生日を忘れかけていたことに気づいた。
工藤の誕生月である八月に入ったところで、良太はいつもの通り、お中元として、工藤行きつけのバー『オールドマン』に、工藤の好きなラム酒を入れてもらった。
杉田のケーキは楽しみだが、きっとまた工藤の嫌そうな顔が見られると思い、良太がニヤニヤしている間に、ダイニングには、エビや野菜のかき揚げ、キュウリとトマトの付け合わせとともに、涼し気な素麺が並んだ。
「やっぱ夏は素麺いただかないと!」
腹が減っていた工藤も良太もとにかく素麺に取り掛かった。
「このかき揚げ最高!」
良太の食べっぷりに杉田は満足して、お茶を入れた。
ちょうど畑から戻ってきた平造と自分にもキッチンのテーブルに素麵を用意し、杉田はようやく座った。
やっぱ、杉田さんも俺ら戻ってからじゃないと、食べないから、遅くなっちゃったよな。
良太は申し訳ないと思いつつ、きれいに平らげた。
工藤もそれをわかっていたから、慌てたのだろう。
いい迷惑だったのは、工藤に急かされて睨みつけられた、ショップのスタッフだよな。
食事の後、二階へ上がろうとした良太は、また新聞を手にしている工藤に呼び止められた。
「はい、何ですか?」
「さっきのネクタイ、持ってけ」
「え?」
良太は工藤を見つめた。
え、あれ、工藤のじゃなくて?
「お前、また同じヤツ持って来ただろ」
「だって、あれだってそんなに使ってないし」
「前のパーティに使ったやつはやめとけ」
「あ、はい、ありがとうございます」
ええ、俺が前回と同じネクタイとか、覚えてたりするわけ?
ってか、同じでも俺は一向に構わないけど、やっぱ、営業的にはそこまで考えなきゃってことか。
工藤がそんなに細心のことまで考えていることに良太は妙に感心してしまった。
階段を上がっていく良太の背中に目をやった工藤は、まあ、そこまで覚えているやつもいないだろうが、と心の中で呟いた。
前にあの店を通りかかった時、良太に似合いそうだと思っていたことの方が、ネクタイを買った理由としては大きいだろうが。
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