「はあ? それって千雪さんの小説のネタかなんかと違うんですか?」
できればそうであってほしい希望を込めて良太は言った。
「残念ながら、事実は小説より、言うやろ?」
「言うやろじゃないですよ。渋谷さんには伝えたんでしょ?」
「伝えたんやけど、肝心の女優や御曹司の名前とかわかれへんし、大物やと慎重に証拠固めせな、言われてな」
「じゃあ、もう警察にお任せしたらいいじゃないですか」
暢気そうに言う千雪に良太は目をむいて言った。
「そうもいかんやろ。東洋グループのパーティでコカインの売買とか、な?」
な、と言われても、良太には簡単に、そうですね、などとは言えない。
「そこでや。良太ちゃんに、ちょっと助っ人頼みたいんや」
「お断りします。武術をたしなんでいるわけでもない俺に、何もできるわけないでしょうが」
すると、「まあまあ、そういきりたたなくても」と顔だけは武士のように男っぽい白石がにっこり笑う。
「せやで? 良太に腕っぷしなんか期待するわけないやろ」
あまりにはっきり断言する千雪には、わかってはいてもちょっと良太もムッとする。
「パーティに出席する有名どころの女優は五名、中には大御所もいはるしな」
千雪が言った。
「大御所、ですか?」
女優と聞けば、良太にしても全く関係ないとはいえない。
今後の仕事にも関わってくる可能性もあるからだ。
しかも大御所って。
「榊裕奈、橋田響子、山本あずさ、伊坂麻里亜、田野倉奈美」
加藤が上げた名前に、良太は驚きを隠せない。
五人とも人気実力ともに認められた女優ばかりで、大御所というのは田野倉奈美のことだろう。
四十代の美人女優で、山内ひとみとよく比べられ、ドラマの主演をどれだけこなしてきたろう演技派として知られている。
榊裕奈は若手では実力派として引っ張りだこの旬の女優である。
他の三人もそれぞれ活躍しており、CMなどではおなじみの顔だ。
青山プロダクション関連では、この五人を起用したことはないが、良太は個人的に榊裕奈は大河ドラマに抜擢されて以来大躍進だと思ってみていた女優だ。
それが、クスリとかって、冗談だろ?
「その御曹司いうんが誰かてことは、今調査中なんや」
千雪は腕組みをしながら言った。
「でも俺にできることなんか、ない気がしますけど」
「良太には、特別何をしてほしいとか、そういうんやないから、心配せんかて」
「ええ? じゃ、どういうんです?」
良太はあくまでもまだ引き受けるとは言わずに聞いた。
「カメラ、ネクタイピンとかに着けて、ただ会場内を歩き回ってくれれば」
加藤が答えた。
「カメラ?」
「ごく小さいやつやし、絶対わかれへんようになっとるから。まあ、できれば女優陣のそばを通るとか」
その程度ならとは思うものの、千雪のことだ、他に何があるかわからないと、良太は身構える。
「何せこの人数やろ? 捕り物は屋敷の外でやりたいし、そうすると司令塔の加藤を除いて四人。そのうち、会場にスタッフで入れそうなんは、なりからして誠か山倉くらいやし、誠は前に、速水さんや理香さんと顔合わせとるよってメンドイんや。やから山倉にはホールスタッフとして動いてもらうけど、一人ではな」
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