工藤に歩み寄った良太は、ようやくその横に立つ華やかな美女に気づいた。
田野倉奈美、山内ひとみと並び称される大御所女優である。
「うちの広瀬です。こちら瀬尾プロモーションの柏木さん、田野倉さんだ」
工藤が年配の眼鏡の瀬尾と田野倉を良太に紹介した。
「初めまして、広瀬です」
「広瀬さんはうちの仕事でもプロデューサーとして活躍されてるんです」
紫紀が口を挟むと、「それはそれは、お若いのに頼もしいですね」と瀬尾は世辞を言った。
「あら、俳優さんじゃないんですの?」
田野倉が言うのに、工藤に秋波を送っているようすの彼女をつい眉を顰めて見つめていた良太は慌てて作り笑いを浮かべて「いえ、制作の仕事に携わっております」とかろうじて返す。
瀬尾プロモーションは中堅どころの芸能事務所で、多くの俳優やタレントが所属している。
田野倉は事務所でも筆頭の位置にいるのだろう。
「あ、工藤さん、お久しぶり」
その時、良太の背後からまた艶やかな声がした。
振り返ると山本あずさが良太とは同年配くらいの男性とやってきた。
山本は年齢でもキャリアでも田野倉と榊の中間くらいに位置し、いくつかの映画やドラマで主演もしている美人女優だが、最近は少し仕事を控えているようだ。
瀬尾や田野倉とは面識があるらしく、山本は軽く挨拶を交わした。
「そちらは新人さん? 次のドラマに出るのかしら?」
今度は良太に目をやって山本は聞いてくる。
またぞろ俳優と間違われているのに、良太は極力感情を抑えて、「はじめまして、青山プロダクションの広瀬と申します。制作の仕事に携わっております」としっかり訂正をした。
「ええ? ドラマに出たら映えるのに、もったいないじゃない、工藤さん」
何だか物言いが馴れ馴れしい。
「最近仕事を選んでいるのか」
愛想はないが、工藤もよく知った風な口を聞く。
仕事上の知り合いってだけだよな?
良太はムッとした顔になり、山本を見た。
「工藤さんこそ、全然声をかけてくれないじゃない」
山本は拗ねたような口調で、怪しげな眼差しを工藤に向ける。
「お前に合う仕事ならな」
何だよ、そのまんざらじゃないみたいな言い方!
良太としては非常に面白くない。
そのうち、田野倉と瀬尾は別の知り合いのところへ去ったが、はたと自分の使命を思い出して良太は田野倉の後姿を目で追った。
ここで、怪しいと言われる五人の女優のうち既に二人と遭遇したことで、自分から探しに行かなくても工藤のそばにいれば、向こうからやってくるのではないかなどと思う。
「以前、ドラマにも出てらっしゃいましたよね?」
ふいにそんなことを口にしたのは、山本の横で静かに寄り添っていた勝本というマネージャーだ。
「いや、あれはほんのピンチヒッターで、もともとそんな器ではありません」
これまで幾度となく似たような言い訳をしてきた良太だが、未だに覚えている者がいるのかと、不思議ですらある。
「工藤さんの仕事ならいつでもOKなのに」
ぞれより紫紀もいるのに明らかに工藤に媚びている山本を、良太は一瞬睨んでしまった。
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