「仕事は順調のようだね」
柔らかい口調で紫紀に尋ねられて、良太ははっと顔を上げた。
「はい、お陰様で、いろいろ勉強になっています」
そこへ小夜子がやってきて、「あら、今日のネクタイ可愛いわね。よくお似合いよ」といつものように苦労のないようすで言った。
「ありがとうございます」
工藤のチョイスは女性には評判がいいようだ。
「ところで、千雪ちゃん知らない?」
小夜子がこそっと良太に聞いた。
「あ、俺も探してるんですけど。見つけたらお知らせします」
ひょっとしたら屋敷の隅の方で加藤らと一緒にいるのかも知れない。
ホールを見回すと、長身の山倉がトレーにグラスを乗せて招待客の間をすり抜けて歩いているのを見つけた。
この手のバイトはいろいろやったらしく、板についている。
田岡や石川がどこにいるかと探したが、近くにはいないらしい。
榊裕奈、橋田響子、伊坂麻里亜の姿も見当たらない。
「何をキョロついてるんだ?」
いつの間にか傍に来ていた工藤が良太に怪訝な顔を向けた。
「ああ、いえ、前回より招待客多いかな、とか」
「フン、まあ、こんなもんだろ」
どうでもいいという顔で工藤が答えた。
一見地味なダークネイビーのストライプだが、曽祖父御用達のダンヒルのブリティッシュモデルのオーダースーツで、工藤はビシッと着こなしている。
オヤジのくせに招待客の中でも群を抜いてカッコイイと思ってしまう自分を惚れた欲目だと嗤い良太こっそりため息を吐く。
ちぇ、どうせ俺は終わってるよ!
「俺、何かもらってきます」
良太は料理のテーブルに向かいながら、ちらちらとあちこちに目をやった。
え、榊裕奈、田岡といるじゃん!
田岡は三十代、まだ独身を謳歌して数多の女性と噂になっているらしい。
良太は二人の方を向いて、加藤らにも知らせた。
何かえらく親密そうだな。
田岡は榊の腰に手をあててどこかに移動しようと促しているようだ。
しばしその行方を追うように二人を見ていたが、加藤から「いいよ、後はこっちで追うから」という声が耳に届いた。
「わかった」
良太は小さく答えて、テーブルの上の皿を手に取った。
「頼もしくなりましたね、良太ちゃん。地に足がついてるという感じです」
何か物思いをしている顔だと良太を訝しんでしばし目で追っていた工藤は、「は、まだまだでしょう」と紫紀に答えた。
まあ、内心では、多少、紫紀の言葉に頷いているのだが。
あいつら、また何か企んでるな。
工藤は前回のパーティで千雪や京助らの車の窃盗グループを捕まえるのに良太も加担していたのを思い出した。
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