それに、ホールスタッフに一人、猫の手軍団のメンツが混じっている。
ということは千雪や京助も絡んでるに違いない。
一体今度は何をやらかす気だ?
工藤は険しい目つきでホール内を見回した。
紫紀と小夜子はやってきた年配の夫婦と歓談していた。
あれはコニーグループCEO夫妻か。
チラリと目をやった工藤はその顔を思い出した。
コニーグループは東洋グループと肩を並べる多国籍コングロマリットで、世界に誇る企業グループの一つである。
この夏のパーティには、日本の財界の上位を占める企業の関係者がこぞって集まってくる。
綾小路家のおおらかさもその理由だが、いくら厳重に招待客をチェックしても車の窃盗犯が入り込んだように、思いもよらぬ人間が混じる可能性もある。
猫の手が入ってるってことは、何か情報でも入ったのか?
そんなことを考えながら工藤があたりを睨みつけていると、料理を乗せた皿を二つ手にして人ごみをかき分けながらやってくる良太が目に入った。
すると自然と工藤の目元も緩む。
あのバカは腕っぷしも弱いくせに泥棒が目の前にいたら逃げずに飛び掛かる方だから世話が焼ける。
「また理香さんや速水さんに出くわして、いろんな人紹介してくれたりするんで、なかなか戻れなくて」
良太は料理の乗った皿を工藤に差し出しながら言った。
「俺、皿で手がふさがってるもんだから、理香さんが勝手に俺の名刺とお客さんの名刺交換してポケットに入れてくれちゃって」
「ほう?」
皿を受け取った工藤はにやつきながら良太を見た。
「えっと、芝浦建設の秋川さん、関東不動産の岸和田さん、横浜重工の剣持さん」
良太は片手でポケットから名刺を取り出して、名前を伝えた。
「剣持? 年配の?」
「いえ、工藤さんよりちょっと若めの女性でした。知ってるんですか?」
「まあな。大昔、祖母の婚約者だったのが、その剣持家の人間だったらしい」
剣持という名前を聞いて、工藤はふと、昔、曽祖父が珍しく苦々しい顔で呟いたのを思い出したのだ。
「多佳子が剣持と結婚していればな」
あとで後見人の弁護士森山の話で知ったのだが、曽祖父は横浜重工の創業者剣持の当時の社長とは大学の同期で、多佳子と剣持の長男は昔からよく知っておりゆくゆくは結婚させようとしていたらしかった。
多佳子に婚約を破棄された形だったが、曽祖父の葬儀には親子で来てくれていたのを、工藤は覚えている。
「そうなんですか? じゃあ、向こうも工藤さんのこと知ってるんだ?」
「いや、曽祖父の葬儀以来会ってないからな」
そうだよな、多佳子さんが駆け落ちしちゃったから、その人振られたってことだもんな。
良太はつくづく人と人との関係が複雑で面倒そうだと顔を顰めた。
「じゃあ、さっきの人って、その人のお孫さんとかですね、きっと」
孫、か、そうだな。
時間は随分経ったわけだ。
厳格なイギリス風紳士だった曽祖父には、さほど怒られたこともないが、あまり可愛がってもらった記憶もないから、工藤には家族、親との関係が今一つわからない。
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