「まあ、千雪くんも良太ちゃんを危ない目に合わせるようなことはしないはずですから、そこのところは信用していただいて」
工藤が良太のことを気にかけているのだと、紫紀にはインプットされているようだ。
それがどういう意味合いのものであれ、工藤はかまわないが、紫紀という男がにこやかな外面だけでは到底計り知れないと、あらためて認識せざるを得ない。
「そういえばアメリカの配信会社のドラマ制作にも携わっておられるとか」
紫紀の情報網はそれこそ世界中のいたるところに張り巡らされているらしい。
「ええ。局の先輩経由で声がかかりまして、実際の仕事は来年からになりますが」
「いや、工藤さんの器量であればご活躍の場を広げられるのは至極当然かと思いますよ。私も楽しみにしております」
「恐縮です」
紫紀は通りかかった財界の重鎮とちょっと言葉を交わしたがすぐにまた工藤に向き直った。
「しかしテレビ離れ、加速してますねえ」
少し憂うように紫紀が言った。
「確かに。厳しいものがありますが、まだまだ衰退してもらっては困ります」
工藤はふっと嗤い、「民放の頼みの綱はTversですね。あとは各局が持っている配信サービスでコンテンツを見せるシステムで、何とかつないでいます」と続けた。
「システムも時代によって変遷していくものですからね。だが、面白いものを作れば、どのツールであれ見てくれるでしょう」
「いや、本来それが当たり前なんですが、視聴率だけを追って奇をてらったものばかりが目立つ。案の定逆に視聴率も落ちていきますよ」
「まあ、皆さん、四苦八苦しておられるんでしょうけどね」
紫紀とそんな会話をしていた工藤は、そういえば良太はどうしたんだと混雑しているらしいカウンターの方に目をやった。
カウンターの中ではバーテンダーが忙しく動いていた。
スタッフがグラスにワインやシャンパンなどが注がれたグラスをいくつか載せたトレーを掲げてこちらも忙しなく人の合間を縫って歩いているのだが、それでも好みの酒を求めて客が押し寄せていた。
やっぱ、今回お客さんえらく多いんじゃないか?
バーテンダーの数も増えているのに、次から次へとお客がやってくる。
良太は前の客の後ろに並んで自分の順番が来るのを待っていた。
何気にあたりを見回した良太は、その時、さっきホールを出ていった田岡と榊が戻ってきているのがわかった。
と同時に良太は、今度は橋田響子と石川が隅の方で一緒にいるのに気付いた。
「橋田さんと石川が」
思わず良太が口にすると、「OK、ほんとだ。あとはこっちで追う」という加藤の声が耳の中に聞こえた。
橋田響子は三十路手前の実力派として知られる俳優で、人当たりもよいという好評を良太も知っている。
まさかね。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
