Summer Break32

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 ようやくカウンターに辿り着いた良太は、ラム酒と自分にはモヒートを作ってもらい、紫紀が飲んでいたコニャックもオーダーして、左手にラム酒とモヒートを、右手でコニャックのグラスを持とうとした。
「あ、お持ちします」
 そこへやってきたホールスタッフが声をかけてくれたので、良太は危なっかしい恰好で戻らなくてもよくなった。
 良太とトレーを掲げたスタッフが紫紀と工藤のところにやってきて、工藤にラム酒を、紫紀にコニャックを渡し、良太もモヒートのグラスを取ったその時、背後で賑わしく声があがった。
 良太が思わず振り返ると、榊と田岡の前に一人の女性が立ちはだかっているのが見えた。
「ぬけぬけと公衆の面前で人の婚約者といちゃついて、芸能人ってほんとお行儀が悪いったらないわ」
 声高に喚く女性は一見清楚な、薄いピンクのドレスをまとい、長い黒髪にきりりと整った顔をしていた。
「弘美さん、誤解ですよ」
 慌てたように田岡が弁解しようとすると、弘美と呼ばれた女性は、持っていたグラスのワインを田岡に引っ掛けた。
 わあっと大仰な声を上げる田岡の横で、「お行儀が悪いのはどっちよ!」と今度は榊が喚いた。
 明らかに三角関係の修羅場が繰り広げられているのを、周りは驚きつつも興味津々で眺めている。
 離れているし、良太もどうするともなくただ見ているしかなかった。
 そこへすかさずやってきたのはホールスタッフとして動いていた猫の手軍団の山倉だった。
「お客様、大丈夫ですか?」
 山倉はワインをまともに浴びた田岡の上着を、持っていたナプキンで拭き始めた。
「公一さん、動けますか? ちょっとお願いします」
 良太の耳の中で加藤の声がした。
 それからすぐに公一が三人のところへ飛んできて弘美をなだめつつ奥へと促し、山倉は田岡と榊をドアからホールの外へと連れ出した。
 公一は綾小路家の執事藤原の息子で、今回も裏方に駆り出されている。
「弘美さん、いい加減、田岡くんは切った方がいいでしょうね」
 ぼそりと紫紀が呟いた。
「彼女は?」
「トーワ製鋼の創設者一族で、うちとは家族ぐるみで付き合いがあるんです。田岡は婚約者なんですが、あまりいい噂を聞きませんからね。マスコミが紛れ込んでいなければいいのですが」
 工藤の問いに紫紀はさらりと答えた。
 ただの三角関係か。
 田岡と榊は今回のクスリの売買には関係ないんだろうか。
 この中にマスコミが紛れ込んでいたり、するかもな。
 紫紀さんはそういう心配もしなくちゃいけないわけか。
 だったらなおさらこの場でクスリの売買とか、論外だよな。
 良太はひと悶着が収まったらしいのをしばし漠然と見ていた。
「橋田がホール内に逃げ込んだ!」
 ややあって、またしても良太の耳の中で加藤が声を上げた。
「山倉! はいないか。良太! そっちに橋田が向かってる。適当な理由をつけて足止めしてくれないか?」
 え?
 はっとして見回すと、今度は右手から橋田が形相も険しく、人をかき分けるようにして足早に良太の方へやってくるのがわかった。

 


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