ちょ、足止めって、適当な理由って言われたってっ!
「あ、橋田響子さん、ですよね? 私、青山プロダクションの広瀬と申します。『恋のカウントダウン』でご活躍の頃からずっとドラマなど拝見させていただいております」
良太は急ぎ橋田の前まで行って、いきなり話しかけた。
「何よ、あなた、新人?」
橋田は胡散臭そうに良太を見上げた。
「あ、いえ、私、プロデューサーの広瀬、と申します」
新人ってなんの新人だよ?
とりあえず良太はポケットから名刺を取り出して、橋田の前に差し出した。
「え、青山プロって、もしかして、工藤さんの?」
名刺を見た橋田の表情が少し変わった。
「はい、橋田さんはお忙しい方なのでなかなかオファーも難しいと工藤も申しておりまして」
いや、むしろ警察からオファーがきそうなのか?
「いっちょまえに売れっ子女優をナンパかよ」
ところがそこへ聞いたことのある声で揶揄が飛んだ。
良太が振り返ると、俳優の大澤流が立っていた。
大物監督を父に大女優を母に持つ二世俳優で、二枚目だが最初は我儘で口が悪いと悪評も高かったが、最近では人気ばかりが先走った顔だけ俳優から演技派とまで言われることも多くなった。
小林千雪原作のMBC局のドラマでは、老弁護士シリーズで若手弁護士役でまた名を挙げている。
「ナンパとか、大澤さんじゃあるまいし」
「クッソ生意気に、昔ドラマに出た時は、すみませーん、とかって泣いてたくせに」
またぞろ黒歴史を持ち出されて良太は眉を顰める。
「泣いてませんよ。それに俳優とかの器じゃないってわきまえてますから」
フン、と大澤を睨みつける。
「何言ってんだよ、あのドラマあんなチョイ役だったのに、楠大先生が惚れ込んでお前のことずっと探してたって、知ってるだろ? あのまま続けてれば今頃売れっ子になってたかもだろうが」
意外なことを言い出す大澤に良太はそれこそ怪訝な顔を向ける。
「学芸会かよとか、さんざ俺に文句言ってたくせに変なこと言わないでくださいよ」
「お前、出てきそうな杭は徹底的に打つのが芸能界の掟だろうが。見ろよ、俺がさんざん言ってやったお陰で、本谷なんか見事に売れっ子だ」
大澤はどや顔を向ける。
そういえば本谷は順調に俳優として名を挙げているな。
その名前に、良太は本谷とのあれこれを懐かしくも思い出した。
「また新人いじめしたら、キャスティング考え直しますからね」
良太が大澤に軽くジャブをかますと、「これだよ! クソクソ生意気に拍車をかけやがって、プロデューサー良太様様だからな」と鼻で笑い、大澤はその場から立ち去った。
良太が足止めしていたわけではないが、大澤と良太のやり取りの間、ポカンとした顔で二人を眺めていた橋田は、後を追ってきた京助に腕を取られた。
「恐れ入ります、橋田様、お車がお迎えに来られているようです」
「え、あ、あなた、綾小路京助?」
ちょっと青山プロダクションにも興味がありそうな顔をしていた橋田だが、イケメンには女優も弱いらしい。
「はい、どうぞ、ご案内します」
橋田は喜んで京助に連れられてホールを出て行った。
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