Summer Break34

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「ったく、これだからイケメンってやつは嫌いなんだ! 売れっ子女優が簡単に連れられて行くし」
 耳の中でも加藤が地団太を踏んでいるように喚いた。
 あーあ、お迎えの車って、サイレンのついてるやつだったりして。
 良太が紫紀と話し込んでいる工藤のところへ戻ると、「おい、橋田をキャスティングするつもりじゃないだろうな?」とすかさず工藤が問いかけた。
 その言い方からすると、裏を返せば工藤にはそんなつもりはさらさらない、ということのようだ。
「いえ、ちょっと聞きたいことがあっただけで。キャスティングしたくてもできなくなるかも」
「なんだと?」
 工藤が胡乱気に良太を見た。
「いえ、大澤さん、なんか黒くなってましたよ。ハワイかグアムとか行ったんですかね」
「大澤さんの別荘が近くなんですよ。お父上や三宅陽子さんとはうちの親も親しくさせてもらってます」
 良太が大澤のことに話を切り替えると、紫紀がそんなことを言った。
「三宅陽子って、かなりな大御所俳優ですよね。映画メインだし、なんか下界のことには関心ないんじゃないかと思ってました」
 率直な感想を口にする良太に、紫紀が笑い、「いや、結構、ざっくばらんな人ですよ。大澤くんのドラマは必ず見てるみたいだし、老弁護士シリーズは特に気に入ってるって言ってたよ」
「そうなんですか? じゃあ、当分大澤さん、ドラマ降りられないですね」
「おや、そんな話があるんだ?」
 良太の呟きを聞きつけて紫紀がにこやかに良太に尋ねた。
「いえ、あの人、新人がくると絶対いじめるから、今度やったらキャスティング考えますってさっき言っちゃって」
 紫紀は笑った。
「彼は子供のころからいじめっ子の典型みたいですよ。そういえば、千雪くんと大澤くん、初っ端からケンカ腰だったそうですね」
 紫紀は工藤に尋ねた。
「ああ、出合頭に、どっちも喧嘩っ早い犬みたいなやつらですからね」
 工藤はフンと鼻で笑う。
 え、そうなんだ。
 それは良太にとっては初めて聞く話だった。
「千雪くんと京助がちょうどニューヨークから帰ってすぐの頃だから、あの頃、帰ってみたら千雪くんのアパートが空き巣にやられてて、千雪くん、かなり怒り心頭でしたから、そのとばっちりを受けたんでしょう」
「あ、その話、俺も千雪さんから聞きました。帰国したら部屋に空き巣に入られてたとか、冗談じゃないですよね」
 良太が千雪の部屋に数日居候していた時に、そんな話も聞いていた。
「もともとセキュリティの甘いボロアパートなんかにいるから、そういう目にあうんだ。千雪は自分の立ち位置に未だにまったく関心がない」
「そうなんですよ。その上、頑固でしょう? あの時も、今の部屋に引っ越させるのに俺たちだけでなく、小夜子さんも手を焼いてましたよ」
 工藤の文句に同調した紫紀がそう言ってすぐ、背後から「はあ、俺の頑固なんは一生なおらへん思いますけど」という声が聞こえた。
「おや、千雪くん、に京助、やっと現れたね。それで捕り物は終わったのかい?」
 振り返った紫紀は、暢気そうに聞いた。
「はあ、ようやく、さっき県警の人が来て、二人を連れていかはりました」
 こちらはさすがに疲れた顔で、千雪が答えた。


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