「兄貴、俺ら、奥にいるんで、終わった頃ちょっと話すから」
京助はそういうと、千雪を伴って料理を手に奥へと入っていった。
間もなく会もお開きとなり、帰っていく客人たちに挨拶をしていた紫紀や小夜子だが、あらかた人の波が引いてくると、パーティ会場を後にした。
とっとと帰りたかった工藤だが、紫紀に良太ともども中へと促されて渋々隣接する応接間へのドアをくぐった。
中ではテーブルの上のになった皿を前に京助と千雪が何やら頷きあっていた。
工藤と良太がソファに座り、紫紀や小夜子も向かいに腰を下ろすと、藤原が紅茶と一緒に良太が手土産にした抹茶のパンナコッタをトレーに乗せてやってきた。
「やっぱ、これ、うまいわ」
目の前に置かれた深緑色の代物に眉を顰めた工藤にはお構いなく、千雪が良太を見た。
「ほんと、うまい!」
良太も一口すくって思わず口にする。
「美味しいものを食べる時って、ほんと幸せそうな笑顔になるわね」
そんな二人の様子を見て、ふふふ、と小夜子が笑う。
「それで京助、いったいどういう捕り物だったんだ?」
カップをテーブルに置いてゆったりと長い足を組んだ紫紀が尋ねた。
「ああ、石川と女優の橋田が、パーティを利用してコカインのやり取りをしてたのさ。二人とも警察に連行されて、あっさり吐いたってよ」
簡潔明瞭に京助が答えた。
「石川か田岡のどっちかと女優の誰かがここで売買するらしいって、売人仲間の一人からの情報を加藤らが手に入れたんで」
それを聞くと紫紀はふうっと息をついた。
「まったく、そういうことを何もうちのパーティでやらなくてもねえ」
のんびりとした口調で紫紀は言った。
「じゃあ、実況見分とかに警察が来るんじゃないの?」
ちょっと嫌そうな顔で紫紀は続けた。
「石川と橋田ってわかってからは二人を追って撮ってたし、ここなら身元がしっかりした連中が大勢集まってるから怪しまれないと思ったとか、売人がぬかしてたってよ」
「ほんま、よういうわ。データ渡してあるし、警察もうち中あら捜しするとかはない思いますけど」
京助の話を引き取って千雪が答えた。
「それにしても、橋田さんといえば人気俳優だから、またマスコミが騒ぎそうですね」
紫紀は工藤に顔を向けた。
「まったく、周囲はいい迷惑ですよ。橋田のことが取りざたされれば、関わったドラマやなんかの制作側が怒り心頭でしょう」
苦々しげに工藤が言い放つ。
「ですよねえ。例の水波の時なんかも、俺らまで振り回されましたからね。まあ、橋田さんは幸か不幸かうちとは関わりないですけど」
良太も思わず口をはさむ。
以前、覚せい剤で逮捕された人気俳優水波清太郎のお陰で、水波が出演していたドラマや映画、それにCMなどが放映中止や撮り直しなど、制作陣は大わらわだったのだ。
おそらく橋田のことが公になれば、橋田が出演している今撮影中のドラマがまず大変だろうな。
撮影陣の苦労を思いやると良太までため息が出てきそうだ。
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