春雷17

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「佐々木さんのお母さんにはまだお試し期間だろうが」
 怖そうな佐々木の母親を頭に思い浮かべながら、良太は言い返す。
「大体、お前はそう軽々しく口にするな! 佐々木さんの立場ってものもあるんだからな。それに、沢村のオヤジさんに知られたらまずいだろう」
「んなこたわかってるし、沢村のうちとは縁を切ってるからどうでもいい」
 傲岸不遜に沢村は言い切った。
 亜弓は沢村の仏頂面をチラッと見やったが何も言わなかった。
 確かに子どもの頃から後先考えず動く良太の横で、その分、何かと考えてから動くのが亜弓だった。
 子どもの頃からなりたかった教師になったことでも、しっかりと信念を貫いているといえた。
「悪かったな、せっかく来てくれたのに、アスカさんはともかく、沢村まで」
「いいわよ、いろいろなことわかったし」
 それを聞くと、良太はあーあ、と思う。
 一応、亜弓にはどう言おう、などと考えてはいたが、アスカや沢村の発言から、余計なことまで亜弓に知られてしまった。
 ここまで来たらそれこそもうどうでもいいや、と思ってしまう。
「もしかさ、本宮さんのことお母さんたちに紹介してもいいかってなったら、その時ほら、本宮さん、弟さんの話絶対するから、それでお母さんたちの反応見て、OKそうだったら、お兄ちゃんもちゃんと話したらいいじゃない」
 亜弓もいろいろ考えた末の結論だろうと、良太は思ったが、あまり話したくないのは、自分と工藤の場合、沢村と佐々木のような、本宮の弟の場合のようにちゃんとしたパートナーだとは言えないところにあった。
「何だよ、お前もいっちょ前に彼氏紹介すんの?」
 沢村が茶々を入れる。
「フン、沢村みたいにちゃらちゃらしてない真面目な教員だから」
「弟さんの話って何?」
「うん、まあ、本宮さん、話せる相手には話しているからとは思うけど、ニューヨークにいる弟さん、パートナーが男で結婚してるのよ」
「ああ、向こうだと結婚もできるんだよな。俺も佐々木さんとニューヨークとか行きてぇな」
 沢村がぼやく。
「行ったらいいじゃない。そういえばMLB行くんじゃなかったの?」
「若いやつらみたいにMLB行くんだ、みたいな気概はないし、佐々木さん、母親と二人暮らしだから、残してニューヨークってわけにいかないんだ」
「待てよ、確かボストンのレッドイーグルスの監督から再三オファー貰ってるだろ、お前」
 その噂はもう半年くらい前から良太の耳にも入っていた。
 以前、沢村がフロリダのスプリングトレーニングに参加した時に、レッドイーグルスのブルックス監督が沢村を気に入って、以来、MLBに誘っているらしい。
 一度良太と一緒にアメリカに渡ると言ってた時が最初のオファーがあった年だったようだ。
 だが、佐々木と付き合い始めた沢村は、MLBへの興味を失ったかのように見えた。

 

 


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