月澄む空に111

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「今の良太さんの宣言聞いて、俺も宣言します! 絶対主役張る俳優になる!」
「頼もしいじゃないですか!」
 良太もへらっと笑い、ぐい飲みを差し向けた。
「まあ、カムデンヤーズよりは現実味があるんじゃないのか?」
 ニヤニヤ笑う工藤を一瞥して口を尖らせた良太は、フン、とばかりに酒を呷った。
「次、どこ行く? ねえ、紺野さん、工藤さん!」
 君塚が完全に出来上がったので、紺野がお開きにしようと店を出た時は十一時だった。
 紺野たちに工藤と良太も付き合ってタクシーを待つうち、良太は楠木の横に立っていた。
「さっき君塚さんが言ってた、『和泉秀也』って良太さんだったんだ? 脚本家の楠やマスコミが探してたっていう新人俳優って」
 ボソッと楠木が言った。
「や、だから、それ、もう俺の中では黒歴史なんで、その話題は……」
 良太はほんとにもう勘弁してほしいと楠木を見た。
「でも正直、羨ましいです。ちょい役で目を付けられるとか」
「ああ、いや、お恥ずかしい限りなんで」
「ここだけの話」
 楠木がフッと笑う。
「脚本家の楠って、実はガキの頃別れたオヤジなんです」
 今度は良太も目を見張った。
「え?」
「最初、役者やり始めた時、オヤジの息子だって気づかれたくなくて、楠に木の字をつけて名乗ったんですけど、気づかれるどころか誰にも注目もされなくて、笑っちゃうでしょ」
 確か奈々のオーディションの時にしつこく良太を誘っていた『先生』が楠だったと良太は思い起こす。
「お父さんは楠木さんが役者やってることを何て?」
 すると楠木は首を横に振る。
「知りません、ってより、俺の存在も忘れてるんじゃないかな。浮気が原因で離婚して、母親には慰謝料や俺の養育費十分な金額くれてたらしいけど」
「会おうと思わないんですか?」
「いや、売れたらあんたの息子だって言ってやろうとか思ってたけど、売れるとかの騒ぎじゃなくて」
 楠木は自嘲する。
「でも、いいんじゃないですか? きっかけはそれでも、好きでやっているってのが確かなら。まずはチンピラヤクザ、やり切ってくださいよ」
「はい、がんばります」
 楠木は今度は声を上げて笑った。
 いろんな人生があるものだと、良太はそんな楠木を見ながらしみじみ思う。
「来た来た、楠木くん、乗って乗って」
 紺野が呼んだ。
「あ、俺、電車まだあるし」
「下っ端役者が遠慮してどうする。送っていくから」
「はあ」
 良太は楠木に「がんばって下さい」と声をかけた。
「はい、お疲れ様でした」
 楠木が後部座席に乗り込むと、助手席のドアを開けた紺野が、工藤にお疲れ様と言ったあと良太を振り返る。
「良太ちゃん、またね」
 紺野は軽く手を挙げた。
「お疲れ様でした」
 良太がぺこりと頭を下げるやタクシーは走り出した。
「前田の店に寄るか」
 歩き出した工藤が聞いた。
「あ、今夜はちょっと飲み過ぎたし……」
 工藤と飲みたいのは山々だったものの、いろいろなことを考えすぎて、また飲んだりしたらきっと工藤にそのいろいろをぶつけそうな気がして、良太は拒否った。

 


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