月澄む空に116

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「佐々木さんは何て言ってるんだ?」
「沢村のやつ、まだ佐々木さんに伝えてないんだ。佐々木さんに引導渡されるのが怖いみたいで」
「何を言ってるんだ。聞いてみなけりゃわからないだろうが」
「そりゃそうだけど」
 二年か。
 別れる切れるには十分な時間だろう。
 沢村が佐々木さんの信頼を得られてないってことか。
 佐々木が沢村と付き合っていると聞いた時は、工藤も驚いた。
 おそらく押し切られてなのだろうが、佐々木の憂慮する気持ちもわからないではない。
 相手はあの沢村で、若いし、ただでさえ人気アスリートだ。
 それがMLBに行って成功したりしたら、今の人気どころの騒ぎではないだろう。
 佐々木さんなら、自分が沢村の障りにならないように身を引くかも知れない。
 沢村はそれを危惧しているわけか。
「佐々木さんを連れて行けばいいだろう」
 こともなげに言う工藤に、「そんな簡単にいくかよ。佐々木さん、お母さんもいるし」と良太は反発する。
「ああ? 病気で寝たきりっていうわけでもない、あの母親なら二年くらいほっといても何の支障はないだろう」
「そんな無責任な!」
「お前、ババアを侮るなよ? 弱弱しく見せるのはやつらの手だし、神経なんかそんじょそこいらの若いやつらなんか到底太刀打ちできない鋼の神経だからな」
 工藤の実感がこもったそのセリフには良太も思わずくすりと笑いそうになった。
 世の中には死んだと見せかけて陰で暗躍している、工藤の祖母多佳子には、良太もえらい目にあったのだ。
 それに確かに、佐々木の母親も鋼の神経が通っているかも知れない。
「でもさ、佐々木さんのお母さんって、七十過ぎてるみたいだし、今までは病気とかなかったかもだけど、やっぱ何があるかわからないし」
 良太は言った。
「何があるかわからないのは年寄りだろうが若かろうが同じだ」
 工藤の言葉は良太の心にささった。
 工藤は大切な人を若くして失っているのだ。
「時間が経過すれば、何ごとも変わる」
「何だよ、どっかの先生みたいなこと言っちゃって」
 何が変わったって、あんたの傍にいられなくなるのはいやだ。
 笑い流しながら良太の心の中は穏やかではなかった。
「沢村もいざとなるとうざいやつだな。京助なんか自分が留学する時、無理やり千雪をつれてったぞ」
「横暴を絵にかいたような京助さんと一緒にしないでくださいよ!」
 無理やり連れていくとか、そんなの佐々木さんに通用するわけがない。
 沢村のホームゲームにやっと佐々木さんを連れ出したって、喜んでたのに、沢村。
 良太は何だか沢村が少し可哀そうになった。
 


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