月澄む空に117

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「フン、だったら佐々木さんもいっそのこと事務所を向こうに移せばいい。こっちでやらなけりゃならないわけじゃないだろう。ニューヨーク事務所ってことで」
 工藤らしいといえばらしい提案だが。
「そんな簡単にできるわけないって」
 良太はちょっとため息を吐く。
「直ちゃんの話だと、佐々木さんってあんまり自分から動かない人みたいで。今の事務所も前の会社の社長が全部お膳立てしてくれたから独立したって」
 変化を嫌うのはわからないでもないが。
 良太の話を聞いて工藤は佐々木の凛とした顔を思い浮かべた。
 思い切って佐々木さんを独立させた春日さんは、佐々木さんのことをよくわかっているようだ。
 だがいい加減、あの人自身自分で殻を破らないと、あの稀有な才能も生かしきれてない。
 親一人子一人で長年暮らしてきて、しかも結婚に失敗してことで、余計に共依存になっているのか、いや、ひょっとすると離れられないのは佐々木さんの方か。
 案外沢村が佐々木さんを引っ張り出すいいきっかけになるんじゃないのか。
 だが、もし沢村が佐々木さんを引っ張り出すことに失敗したら、今度はほんとに引き籠ってしまうかも知れない。
 そうするとあのバカ、ヤケクソで向こうに行ってたまたま良太と会ったりしたら、物の弾みだか酔った勢いだかで、良太を食うなんてこともないとはいえない。
 ただでさえ、このバカも、たまたまなのか、そういう連中に妙に目を付けられやすいのか、あちこちで襲われそうになりやがって、今まではかろうじて難を逃れたものの、そういう意味では物理的な距離があるし、俺だって駆けつけるには限度があるぞ。
 佐々木のことから、工藤の中で妄想が妙な方向へ広がっていく。
「ちょ、どこ触ってんだよっ!」
 良太が喚いた。
 知らず工藤の手は良太の背中から下へと延び、その尻のあたりを撫でていた。
「ああ? フン、ちょうど手にしっくりくるんだ」
「…バカっ!」
 逃れようとした良太をまたベッドに押し付けながら、工藤は覆いかぶさる。
「…っ!……明日も仕事っ………!」
 良太の抗議も力が入らず、さきほどまで嬲られていた身体は甘く蕩けていくばかりだ。
 喘ぎとも吐息ともつかず漏らす唇を塞ぎながら、三か月か、やっぱ森村も護身用につけてやるか、などと消えない妄想に誑かされた工藤は、必要以上に良太を貪ってしまった。
 お陰で翌朝は、また工藤がコンビニに朝食用のサンドイッチやコーヒーを買いに走ったのは言うまでもない。
「おはようございます。って良太さん、大丈夫ですか?」
 森村に心配された良太は、「夕べ、MBCの紺野さんたちと工藤さんと飲んでさ」などと言い訳しつつ、ヨレっと自分のデスクまで辿り着いた。

 


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