月澄む空に120

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「京助の部屋いうか、もともと京助のお母さんが持ってはったんを京助がもろたんやけどな。ボストンにもでかい家あるし、ニューヨークにはアパート。広いしええとこやで?」
 簡単に千雪は言うが、「でも京助さんのなんでしょ?」と良太は尻込み気味だ。
「空いとるんやからええやろ?」
「いや、そういう問題では……」
 二人がそんな話をしていると、玄関が開いて京助が帰ってきた。
「あ、お帰りなさい、お邪魔してます」
 京助はてっきりまたモルグに籠っているのだと思っていた良太は、ちょっと姿勢を正す。
「おう。今、メシ支度する」
 京助はまっすぐキッチンに行くと、冷蔵庫から鍋を取り出して火にかけ、白菜や人参などを手早く切り、しめじの根元を切り落とすと、湯を沸かした鍋に放り込み、味噌汁を作る。
「ほな、まあ、メシ食うてからにしよか」
「はい」
 ダイニングテーブルに千雪が食器を取り出して置くと、良太はそれを並べていく。
 茶碗に箸、味噌汁ということは、今日は和食らしい。
 間もなく腹に堪える美味そうな匂いが漂ってくる。
 メインは豚の角煮、ブロッコリーとゆで玉子のサラダ、具沢山味噌汁、茄子と白菜の浅漬けに暖かいご飯、と見事な和食の献立だ。
「うっわ、何これ、うっま!」
 口の中で蕩けるような豚の角煮に舌鼓を打って、良太は健啖ぶりを発揮する。
 甘辛の絶妙な味付けにご飯が進む。
 お代わりもしてきれいに平らげた良太は、こんな献立、俺にも作れたらいいのに、と心の中で思う。
「すんげく美味かったです。ごちそうさまでした」
 その横でお代わりこそしないものの千雪も食べ切って満足げにお茶を飲んでいるのを見ると、京助はフンっと笑う。
「そんだけ見事に平らげてくれれば作り甲斐もあるよな」
「ほんとに料理の腕前だけは天下一品ですよね」
 良太の言葉に、「ったく、口の減らないガキだ」と苦笑する。
「あ、いや、すみません」
「良太は根が素直やからおべんちゃらは言われへんねんな」
 千雪がクスクス笑う。
「あ、それより、ニューヨークのアパートて、今、空いてるんやろ?」
「ああ、空いてるが」
「四月から良太がニューヨーク行くんやて。部屋貸したってもええやろ?」
「構わないぜ。何だ、留学するのか?」
 軽く二人の間でそんな話題が交わされた後、京助が聞いた。
「いや、三か月だけ研修に」
「ネットプライムの研修やて」
 良太の言葉を千雪が補った。
「へえ、今ノリに乗ってる企業じゃないか。ちょっと扱かれてこい」
 京助が笑った。
「え、そんな扱かれるんですか?」
「せっかくニューヨークくんだりまで行くんだ、扱かれなくてどうする」
 それを聞くと、ああ、この人も工藤と同じ人種だ、と良太は心の中で頷いた。
「俺、研修とか、さらあっとできればいいと思ってたんですけど」
「工藤の命令か?」
「ええ、昨日、ネットプライムでミーティングあったんですけど、向こうの人から俺に研修に来ないかって言われたらしくて、いきなりニューヨーク行けとか」
 良太は経緯を説明した。

 


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