「あの人、いつもいきなり、ドイツへ行けだのパリへ行けだの、お陰でこっちは付け焼刃のドイツ語とかで四苦八苦させられるんです」
それを聞くと、京助は千雪と顔を見合わせた。
「パリって、あれやろ? マルローのショーの時。良太、えろ、ちゃんとマルローとしゃべってたやん」
「ハハハ、昔から一夜漬けは得意で」
良太は空笑いする。
「工藤がただのド素人を海外くんだりに飛ばすかよ」
「飛ばしてから何とかしろってやつなんですよ! できないなんて言葉は俺の辞書にはいとかって」
京助の言葉に良太は反論する。
「その工藤さんの横暴に応えてるわけやろ?」
「いや、勝手なこと言いやがってって思って無理やりやってきただけですよ」
「それ、反骨精神でちゃんとやるんやからすごいやん。第一、戸塚先生んとこで一回で卒論通ったこと自体すごい思うで? あのセンセ、簡単に落とすんで有名やんか」
良太はちょっと小首を傾げる。
「あの頃、俺、卒業前にもう入社したことになっててこき使われてて、卒論も諦めようかと思ってたんですけど、卒業できないようなやつはうちにはいらんとか、あの工藤が尻を叩くんで、もう死にもの狂いで出したら戸塚先生OK出してくれたってやつで。ハハハ」
「自己肯定低すぎだと向こうじゃ通用しないぞ」
自虐気に説明する良太に京助がビシッと言った。
「人にはビシバシ言うくせに、何で自分のことには後ろ向きなんだ?」
「え? ……そんなこと言われても………」
いきなり京助にまともな意見を言われて良太は少し戸惑った。
「まあ、パワハラ言われて久しいけど、ハラスメントなんか全く意に介さない工藤さんと付き合うてるんやからな。あの人、めったに人をほめたりせえへんからなあ、わからんでもないけど、あの工藤さんに研修に行け言われよることだけでも、良太、もうちょい、自信もってええで」
「はあ」
「向こうに行ったら前に出ていくことだな」
きっぱりまた京助に言われて、「わかりました」と良太も頷いた。
「ほな、今度は佐々木さんの件や」
良太は千雪を見た。
「そうそう、佐々木さんのことで、どんな作戦があるんですか?」
千雪の言葉に良太は身を乗り出した。
立ち上がった京助がお茶を入れなおしてくれる。
「沢村についていくのんを佐々木さんは良しとせんのやろ? それやったら佐々木さんが先にニューヨークに行ったらええんや」
「え? 佐々木さんがですか? まあ、工藤さんも向こうにオフィスを構えればいいとか簡単に言ってたけど」
工藤の話は軽すぎると思った良太だが。
「やから、オフィス構える理由があればええんやろ? ニューヨークで仕事があれば、佐々木さんも行かなんやろ。ほんで、その後に沢村がMLB行きが決まったんなら、何も問題あれへん」
「でも、その肝心の仕事が問題でしょうが」
良太は怪訝な顔で千雪を見た。
「昨日な、小夜ねえと紫紀さんに会うたんや」
それを聞くと良太はお茶をごくんと飲み込んだ。
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