「来年、東洋商事のニューヨーク支社を刷新することになっとって、今、ビルを建ててるとこなんやて」
「はあ」
東洋商事は海外の要所要所に支社を置くグローバル企業であることくらい、良太でもよく知っている。
「その次期支社長に、宮下営業第一部本部長が抜擢されることが決まっとるらしい」
「えっ! あの、怖いおばさん!」
ついつい良太は口にしないではいられなかった。
「そう、その怖いおばはんが、引き続き支社の広報部顧問としても顔を効かせるらしいねんけどな、広報部の第一弾プロジェクトを佐々木さんとプラグインに任せたい言うてるねんて」
「え、そうなんですか?! それってまるっきり願ってもない話じゃないですか」
やった、と喜びたいところだったが、良太はちょっと斜に構えて千雪を見た。
「それって、佐々木さんのこと相談したんで、千雪さんから紫紀さんにお願いしたとかじゃないですよね?」
「なんやね、その疑わしい目は。俺が佐々木さんにニューヨークの仕事くださいとか言うて、紫紀さんが、じゃあ、この仕事やなんてわけにいくかいな」
「まあ、そうですよね」
大会社の大きなプロジェクトをいきなりじゃあ、佐々木さんになんて、いくら本社社長でもそう簡単にいくわけはないのだが。
「もともとそういう話が宮下さんからあって、佐々木さんやプラグインにはまとまった期間ニューヨークに出張してもらう必要があるとは、紫紀さんも思うとったらしい」
「まとまった期間て?」
「いや、佐々木さんもプラグインも東洋商事の仕事だけってわけにはいかないだろうから、そのつど一か月とか、やってんけどな、佐々木さんにニューヨークに進出してほしいわけがあるて言うたら」
「え?」
「詳しい話はせんかったけど、まあ、せめて一年か二年くらいはて」
「思い切り怪しい話になってません?」
「まあまあ、それやったら最初の一年はほぼ専属的にプロジェクトを任せてしもたら、支社としてもオンラインでやり取りするより、都合がいいやろて」
「えええ? そんなとんとんびょうしな話になっちゃっていいんですか?」
良太も驚きの展開だ。
「ええんちゃう? 東洋商事にとっても。向こうにオフィス構えるんやったら、東洋商事がいくらでもバックアップするて言うたはったで?」
「それって願ってもない話ですよね」
「とりあえず一年は支社の専属的な感じで言うても、他の仕事受けたらあかんとかいうことでもないし、後一年は、佐々木さんの思うようにやったらええし、東洋商事関係の仕事もいくらでもありそやで?」
だが、はたと良太は、ここで良太や千雪がいいと思っても問題は佐々木だという事実に舞い戻る。
「でも、佐々木さん、東洋商事からオファーがあったとして、受けてくれますかね」
「まあ、それが肝心やけど、とにかく沢村のMLB行きが大々的にニュースになる前に打診しとかな」
「ですよね。佐々木さんが迷っていたとして、その間に沢村が佐々木さんにMLBのこと話せば、佐々木さんも考えてくれますよね」
良太は腕組みをして頷いた。
「問題はお母さんをどうやって説得するかだよな」
やはり難関はそれだ。
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