月澄む空に123

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「お母さんが、ニューヨークなんてとんでもない、私を一人ほっとくつもり、とかって佐々木さんに反対したら、佐々木さん反対を押し切って渡米とかするかなあ」
「まあ、その時はその時やない? プランAで行くしかないやろ」
「ぷらんA?」
 良太は復唱するように聞く。
「やから、最初に戻って、いずれにせよ仕事的には契約してもろても、一カ月単位の出張とかいうことにして」
「はあ、まあ、それでも、まとまった期間ニューヨークに行くってことにはなりますもんね」
 だったら、沢村が心配するように別れる切れるの話にならず大丈夫なんじゃないか?
「たかだか東京とニューヨークで、しかも期限付きだろ? めんどくさく考えすぎなんじゃねえの?」
 片付けを終えた京助が口を挟んでくる。
「そう簡単にも行かないみたいで」
「飛行機のことなら、東洋商事の仕事やるんだし、支社のプライベートジェット使えばいいんじゃね?」
「は? 東洋商事ってプライベートジェット持ってるんですか?」
 良太は京助に聞き返した。
「兄貴も俺もニューヨークで生まれてしばらく向こうにいたから、アメリカ国籍もあるんだよ。ニューヨーク支社オーナーが持ってるって形だろ?」
「そうなんですか」
 良太は感心する以外にない。
 そういえば、プラグインの河崎は祖父がプライベートジェットを持っていて、去年の仕事の時、大物ミュージシャンの常盤大吾を急遽帰国させたと言っていた。
 世の中、すごい人がいるもんだよな。
 ま、俺には関わり合いがない話だけどさ。
 いつの間にか、水を飲むためにむくりと起き上がったシルビーが、飲み終えると良太の足元に来て寝そべっていた。
「ほんまに、良太て、わんこに好かれるんやな」
「はあ」
 良太は苦笑しつつもシルビーを撫でてやる。
 確かにあちこちで犬たちに寄ってこられる気がする。
 理由は全くわからないが、犬も猫も好きなので、傍に来てくれる分には一向に構わない。
 そういえば以前、ニューヨークに住む佳乃が、工藤のことで良太には意外なことを話していた。
 昔住んでいた工藤の家には、保護犬も交えて大型犬が何頭かいて、広い庭を自由に闊歩しており、猫も何匹かいて、工藤がよく面倒を見ていたと。
 その話を工藤としたこともないが、工藤は自分のことをほとんど話すことはない。
 佳乃や軽井沢の平造や杉田を通じて、良太も知るだけだ。
 工藤にとっては良太はまだまだひよっこでしかないからかも知れないが。
 良太から聞けば何か話してくれるだろうかとも思うが、お前には関係ないと言われるのがいやで、聞いたことはない。
 そんなことを口にすれば、また京助に、何でお前は自己肯定感が低いんだとでも言われそうだが、どうしても未だにそれだけは拭えない。
 人と人との繋がりには、どこかに何かしらの不安要素はあるのではないかと良太は思う。
 佐々木もやはり沢村との繋がりで、心の奥にそういうものがあって、一歩踏み出せないでいるのだろう。
 心の内は読むことなどできないのだ。

 


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