月澄む空に124

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 翌日、名古屋への出張から工藤が戻ってきたのは夕方だった。
 今日は午後から『パワスポ』のミーティングがあっただけで、良太は工藤が帰ってくるのを待って、佐々木のことを話すつもりでいた。
「すみません、ちょっと話があるんですけど」
 自分のデスクで工藤が電話を二件掛け終えたところで、良太は工藤に声をかけた。
「七時に『夕顔』でいいか」
「はい」
 よかった、今夜は出かける用事ないんだよな?
 良太はうきうきしているのを森村や鈴木さんに悟られまいと極力平静を装ってパソコンに向かった。
 二人が帰ったら、猫たちの世話をしてから戻ってくればいいや。
 明日からまたドキュメンタリーの撮影が入っているが、オファーしていた京都の能面師井坂英梨氏がインフルエンザにかかり、二日ほど遅れていた。
 先ほど連絡して体調を尋ねたところ、今日はもう仕事をしているし大丈夫だとの返事をもらったので、スタッフや下柳と打ち合わせをし、午後からの撮影という手はずになった。
 四月から三か月日本を離れるとなると、下柳とスケジュール調整をしなくてはならない。
 地味ながらそこそこの視聴率を確保している『和をつなぐ』は既に来年も継続して放映予定だ。
 差し当って撮影が終わった後にでも、研修のことを下柳に話しておこうと良太は心づもりをしていた。
 『パワスポ』の殿村ディレクターとも話をしなくてはならないが、今日のところはまだ言っていなかった。
 沢村と佐々木のことも気になってはいるが、とりあえず自分のことを考えて行かなくてはならない。
 でもどうするかな、東洋商事のプロジェクトの話、沢村に伝えた方がいいだろうか。
 ペナントレースは最後まで群雄割拠のようすを呈してきた。
 沢村とスワローズの山本とのホームラン争いもどちらも譲らず勝敗は未だ決まらない。
 やはり、今はそっとしておくべきだろう。
 にしても東洋商事から佐々木さんへのオファーはいつになるのか。
「何だ? また何かでぐるぐるしているのか?」
 熱燗を良太に注いでから自分のぐい飲みに注ぐ工藤は、良太の考え事してますという顔を見ておちゃらかした。
 話をするために奥の部屋を用意してもらった工藤は、鯖の味噌煮に箸をつけながら良太の顔を見た。
「や、それが………」
 良太は昨夜千雪から聞いた話として、東洋商事から佐々木とプラグインにニューヨーク支社のプロジェクトのオファーがあるだろうことをかいつまんで話した。
「そりゃまた願ってもない話じゃないか。お前の沢村もMLBに行くのに高かったハードルが消え去るってことだろう」
「そんな、簡単にいくかな。その俺の沢村とかってやめてくれません?」
 良太はムッとして工藤に抗議した。

 


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