「バレンタインにやつが毎年くれる酒に直筆ででかでかと書いてるじゃないか」
またそういう細かいことを覚えているんだからな、このおっさん。
「よほどのことがない限り、この仕事を佐々木さんが蹴ることはないと思うけど、お母さんの対応次第では、向こうに転居するんじゃなくて、長期出張を繰り返すって形になるかも知れないし」
「まあそれでも、佐々木さんが向こうに行く大きな理由ができるだけ、沢村と別れる切れるって話にはならないだろう」
工藤としてもとりあえず四月からの三か月、良太の研修期間中くらいは佐々木が向こうに行ってくれることが望ましいのだ。
佐々木と別れでもしたら、万が一にも沢村が良太にちょっかいを出すようなことにはならないとも限らないと危ぶんでいるからだ。
「まあ、そうならいいんですけど。あ、それで、俺の三か月研修が確定なら」
「確定だ。ネットプライムのロビンスCEOにはお前が承諾済みだと伝えてある」
工藤は良太の言葉を遮って言った。
「はあ。だったら部屋とか探さないとダメですよね」
「三か月くらいホテルを押さえればいい。俺がいつも泊まるホテルで十分だろう」
それを聞くと、良太は眉を顰めた。
「あんなホテル、高いじゃないですか。五つ星だし、三か月なんて最低でも五百万とか冗談でしょ」
「高い安いの問題じゃない。日本とは違うんだ、セキュリティが万全かどうかだ」
そうである。
工藤のために良太は高い安いではなく、セキュリティを考えて五つ星ホテルをチョイスしている。
「それが、京助さんがニューヨークに持ってるアパートを貸してくれるって言うんです」
「アパートなんか持ってるのか?」
工藤は徳利を傾けながら聞いた。
「もともと京助さんのお母さんので、コンシェルジュ付きのセキュリティばっちしのアパートらしいです。ニューヨークに行く時はそこを使うそうです」
京助はそれ以外にも、「何なら兄貴のアパートも今空いてるし、そっち借りてもいいぞ? アッパーイーストサイドの超高級アパートのペントハウスだ」と言ったが、良太は丁重に断ったことを話した。
「紫紀さんの部屋か。百億はくだらないだろうな」
工藤は苦笑する。
「冗談じゃないです。とても浮足だって寝られやしませんよ、そんなとこ」
「京助のアパートはどこにあるんだ?」
「アッパーイーストサイドだそうです。エレベーターやガレージも個々についてて、高輪の工藤さんとこみたく、専用のサービス係がつくそうです」
京助や紫紀の亡くなった母親ケイトは物理学者で、学問に従事したいという理由で大長とは円満離婚だったらしい。
「やから、京助のお父さんも別れる時、十二分な財産を渡したったらしいで。アパートもその一つみたいや。バスルーム付きの部屋も五つはあるし、リビング広いし、セキュリティはとにかく万全やで」
とは千雪の話だ。
「お二人留学してた時も、ニューヨークではそのアパート使ってたみたいですよ? ボストンにもお母さんの家があって、それもかなり広いそうですけど」
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