月澄む空に126

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「フーン、アッパーイーストサイドでコンシェルジュ付きならまあ、いいだろう」
 工藤は言った。
「いっそ、横浜に残ってるビルを売って、ニューヨークにアパートを買うってのも手だな」
 さらにそんなことを言い出した工藤に、「それはまたいつかの話にしてください」と良太は釘を刺す。
 確かに、よくニューヨークにも行く工藤のためには、それもいいかも知れないが、良太の研修に合わせるとかは冗談ではない。
「とにかく、京助さんの提案に甘えさせていただくのが一番いいかと思います。なんかただで貸してくれるみたいですけど、そこまで甘えられないでしょうし、でも賃貸料をお支払いするとしても、五つ星ホテル三か月分とかにはなりませんよ」
 良太はきっぱりと言った。
「フン、まあ、いい。それでお前の沢村はどこにうちを持ってるって?」
「やっぱりアッパーイーストサイドだそうです。沢村が経営するS&Wコーポレーションの共同経営者ウイルソン氏がもともとアッパーイーストサイドに住んでて、近くのコンドミニアムを買ったらしいです。だから、お前の、は余計です」
 良太は淡々と説明した。
「いずれにしても、平民の俺にはさっぱり実感のない映画の世界みたいな話ですよ」
 ふう、と良太はため息をつく。
 秋鮭ときのこの炊き込みご飯に舌鼓をうつ良太に付き合うように、工藤も、「これは美味いな」と食べていた。
 その様子を見て、どうやら食品や調味料の製造販売大手の『まるみ』とのスポンサー契約がうまくいったらしいな、と良太は工藤の微妙な表情から機嫌がよさそうだと読み取った。
 店を出ると、『OLDMAN』に立ち寄り、工藤はラム酒を二杯、良太もダイキリを飲み、工藤がニューヨークでは、どう、何に気を付けるか、といったことを口にする。
 確かに、まだ十月だからなんて思っていると、あっという間に四月になっていそうだが、良太はまだちょっと早い気がするものの、工藤が、良太を研修にやることを喜んでいるような気がした。
「やっぱり、何とか調整して、最初の一週間くらいは森村を一緒につけよう」
 エレベーターで七階に上がり、部屋のドアの前まで来た時、工藤が急にそんなことを言い出した。
「え、だって、モリーにはやってもらわなくちゃならないこと、いっぱいありますよ」
「とにかく調整すれば、何とかなる」
 心配してくれているのはわかるのだが、子どもじゃあるまいしと良太としてはちょっと不本意だ。

 


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