月澄む空に135

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「だけど、俺だけでなくモリーまでニューヨークに行っちゃったら、大変になるんじゃないですか?」
 心配になって良太は工藤を見た。
「前はそれでやってたんだ。何とかなる」
 工藤はいとも簡単に言うが、良太は何か考えないとと思う。
「俺のやってるWEB関連の仕事はどこでもできますけど、良太さんの仕事が問題ですよね」
 森村もうーんと腕組みする。
「『パワスポ』はMLB情報コーナーを俺が担当することで、乗り越えることになったんですけど………ただ」
 良太が言葉を濁すと、「ただ、なんだ?」と工藤が聞いた。
「向こうには俺しかいないんで、俺が取材して、リポートすることになるみたいで」
 それを聞くと、「何でプロデューサのお前がリポートだ? NTVにも海外担当がいるだろうが」と工藤が声を荒げた。
「それが、月二回くらいしか海外担当がニューヨークに来られないって。いつもはロスにいるんで。二か所も海外担当を置く経費がないとかって」
 今は日本人選手で大活躍中のロスアンゼルスドジャース大川選手に張り付いていたいところなのだろう。
 沢村がレッドイーグルスに行ったら多少は違うかもだが、まだその情報を明かすわけにはいかない。
「フン、まあ、沢村が実際レッドイーグルスに移籍したら少しは考えるんじゃないのか」
 工藤は不満顔でそう言った。
 良太は東洋商事のイメージキャラクターの件を沢村に伝えたが、案の定、わかった、とそれだけだった。
 佐々木さんが制作に加わるのかとも聞いてこないことに、良太は沢村の葛藤が伝わってくる気がした。
 そうこうしているうちにセリーグのペナントレースは最終戦を迎えたが、未だ決着はついていないところで、関西タイガースのジャイアンツを迎えてのホームゲームは延長十回までもつれ込んだが、沢村の適時打で二塁にいた山村捕手がホームへ頭から突っ込み、これがサヨナラヒットとなった。
 スワローズが広島とのゲームで負けていたために、この時点でタイガースのリーグ優勝が決まった。
 大阪を中心にタイガースファンならずとも町は大騒ぎとなり、マスコミも大いに沸いた。
 もちろん『パワスポ』もタイガース組とスワローズ組に分かれて張り付いていたが、甲子園球場からは市川が優勝の瞬間からレポートした。
 良太も忙しいだろうと、やったな、おめでとう、とラインだけは入れておいた。
 東洋商事から動きがあったのは、その翌々日のことだ。
 『検事六条渉』のロケの途中で、良太はプラグインの藤堂から電話を受けた。
「はい、こちらにもお話をいただきました」
「ちょっと直に話したいんだけど、良太ちゃん時間作れるかな?」
「ああ、今、吉祥寺なので、ロケの後なら、七時くらいでは?」
「よし、じゃ、そうだね、例のコーヒー屋さん、覚えてる?」
「神宮前の? いいですよ」
 オーナーが一人でやっている、隠れ家的な喫茶店だが、ケーキも美味しかったのを思い出した。
 車をコインパーキングに置いて、店のドアを開けると奥のテーブルで藤堂が手を挙げた。
 そして同時に向かいに座っていた直子が振り向いた。

 


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