月澄む空に136

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「何か久しぶり、直ちゃん」
 声をかけながら良太は藤堂の横に座った。
「だねえ」
 笑みを浮かべる直子だが、何となく憂いを帯びている気がした。
 その原因はおそらく佐々木のことだろうと察しはつく。
「それがさ、できれば佐々木ちゃんに一年くらいはニューヨークでチームに入って仕事をしてほしい、とかっていうわけ、トーヨーショージが」
 ブルーベリーパイをぺろりと平らげ、コーヒーをひと口二口飲むと、直子が語り始めた。
「そうか。うちにもプロジェクトチームに入ってほしいって言ってきたが、河崎のやつは、お前の仕事だろ、ってなもんで。ただまあ、チームに入ったからって、他の仕事をしちゃダメとかってことはないからさ」
 藤堂がなるべく軽い口調で言った。
「それがさ、ニューヨークに事務所や住まいを用意するので、来てもらえればありがたいなんて言われて。もう、佐々木ちゃん考え込んじゃって。母さん一人置いて行くってわけにもいかないしとか言うわけ。でも、ほんとのところは、沢村っちと離れることになるのが嫌だってことだと思うわけよ」
 訳知り顔で直子は一人頷いた。
「そっか。でも、内容は聞いたよね? うちもこのプロジェクト絡んでるからさ、イメージキャラに沢村とアスカさん起用することになってるし、佐々木さん、お母さんのこと心配なら、まとめて何か月ずつかで行ったり来たりするってのでもいいんじゃないか? 沢村もさ、ゲームであちこち行くわけだし」
 今まで考えていた案を良太は言ってみた。
「でも、今までだって月何回かくらいしか会えないわけで、佐々木ちゃん向こうに行ったら、もっと会えなくなるかもしれないよね」
 直子ははあッとため息を吐く。
 おそらくWBCが終わった頃には、沢村のMLB行きが大々的に報道されるだろうから、佐々木も踏ん切りがつくかも知れないが。
「佐々木さん、この仕事のこと、沢村に言ったって?」
「ううん。まだだと思う。沢村っち今忙しいじゃない? クライマックスシリーズに日本シリーズ、さらにWBCもあるからさ」
 直子は良太に不安そうな目を向けた。
 どのみち、それらが終わらないとってことか、と良太も思いつつ、言うべきことを口にする。
「あ、ちょっと俺からもご報告。実は来年四月から三か月間、ニューヨークの会社に研修に行くことになって」
 すると直子は「ええええ? 良太ちゃんも行っちゃうの?」と声を上げた。
「研修は三か月だけどね、東洋商事のプロジェクトがあるからその後もちょくちょく行ったり来たりすることになるけど、うちはほら、ただでさえ人手が足りないから、行ったままってわけにはいかなくてさ」
「プロジェクトチームのリーダーなんだよ、良太ちゃん」
 藤堂が付け加えた。
「え、すごくないい?! 良太ちゃん!」
 こんな風に喜んでくれる仲間がいることは良太も素直に嬉しい。
「いや、蓋を開けてみないとなんともね。でも、絶対成功させたいしさ」
 さりげなく言ってから良太は自分で、言葉の重みもまた感じていた。

 


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